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私は、じっと教室にある扉を見つめていた。 別に、扉に興味があって見つめているわけじゃあない。 そこから入ってくるはずの人物に用があるのだ。 「かがみさん、遅いですね?」 みゆきさんが私の心を代弁してくれた。 いつもお昼はこちらですごすであろう彼女が、10分を過ぎても現れない。 たとえ来れない日でも、律儀にそれを伝えに来る。そんな彼女が。 ふと、在りえない不安に私は駆られた。 かがみは、実は私と一緒にいるのが嫌なんじゃ? 私は不安をかき消すように首を左右に振る。 もちろん、そんなことはないって思っているけど… かがみは私といるとき。 ほんの時々だけど、すごく辛そうな顔を見せる時がある。 どしたの?って聞いても、いつもはぐらかされてしまうし、私もそれ以上は怖くて追求は出来ないままでいた。 …このまま待ってても、不安になるだけだよね? 私は溜まった不安をかき消すように、元気よく立ち上がった。 うじうじなんてしてらんない。 「ちょっと私、見てくるね!」 「うん、こなちゃん。お願~い」 「うん、引っ張ってでも連れて来るよ~!」 早くいつもの調子を取り戻さないとね。 扉まで小走りで駆け寄り、勢いよく開ける。 一瞬、そこにかがみの姿があることを期待したが、所詮はただの願望だ。 早くかがみに会わないと… 早く… かがみがいないというだけで、どうしてこんなにも私の世界は揺らいでしまうのだろう。 仲のよい親友だから? いや、違う。 そんな次元、私の中ではもうとっくに通り過ぎてしまっていた。 私がかがみを「大好き」だからだ。 どのくらい前から自覚しただろう。 気が付いたらかがみのことばかりを考えていた。 この感情が男女間でのそれなのかどうかは分からない。 だって、まだ男の子を好きになったこと無いし、それに、ここまで人を好きになったのも生まれて初めてだ。 今までで一番の「好き」 それをかがみに捧げることが出来た。 それだけでも私は幸せだと感じてしまう。 大切な、大切な、私だけの「好き」 …さて、行きますか。いざ愛しのかがみんのもとへ! かがみがいる隣の教室の扉を開け、躊躇もなく中に入る。 目的のものは探すまでもなくすぐに見つかった。 「あ、かがみ。寝ちゃってるのかな?」 近寄るのに気付く様子も見せず、微かだが定期的な寝息が聞こえてくる。 う、うわぁ… かがみん、無防備すぎるよぉ。 色々な妄想が私の中を駆け巡る。 うわ、自重しろ、私。 …かがみの唇、柔らかそう、とか、どのぐらいしたら起きるかな、とか、何を考えているんだ。ここって教室だし…って!教室じゃあなかったらやる気なの!? ひとり身悶えした後、なんとか平静を取り繕う。 み、みんなも待っていることだし、取りあえず起こさないと。 私はかがみの肩に手をかけ揺すってみる。 「…オーイ、かがみ。かがみんや~? むぅ、手強い…ならば。 か~がみ、か~が~み!」 よりいっそう強く。 そこまでしてやっと重たそうに頭を上げるかがみ。 よほど深く眠っていたのか、いまだ瞳の焦点が定まっていない。 「かがみぃ。ぼぉ~っとして、珍しーねぇ もう、早くおきなよ」 ほっぺたをムニムニつっつく。 普段なら鉄拳制裁ものだが今はやりたい放題らしい。 私にいたずら心がムクムクと芽生える。 「はやく起きないと、寝起き顔、写メっちゃうよ~?」 ずいぶん前にかがみが風邪をひいた時。 あの時は撮り逃しちゃったしね。 私は珍しく携帯していた電話を出そうと、頭を屈めてポケットを漁る。 そのとき、不意にふわりとした、不自然な浮遊感が髪の毛から生まれた。 なんだろ…かがみ? 思わず顔を上げると、そこに、私の長い髪の一房を手のひらで掬い取るかがみがいた。 私がその行動の意図を理解するよりも早く、それをかがみは口元に近づけていく。 「…こなたの髪? あんたの髪って綺麗よね…」 「ふぇ?」 「いい…香りがする…」 唇に髪をあてる。 まるでキスをするかのように。 「!???」 そこで私のつたない理性は吹き飛んだ。 真っ白に染まる思考の中、冷静に、ただ一点のみに事実が集約する。 かがみが私の…! 「…ってぇ! な、ななななな~!!」 半ばパニックになり、思わずかがみから勢いよく離れる。 「か、かかかか… かがみん!?」 真っ白になっていた頭に、今度は急に血が昇ってきた。 その熱量にくらくらする。 「どうしちゃったのさ!! もしかして…寝ぼけてる?」 私はそんな陳腐な台詞を言うのが精一杯だった。 「こ、こなた!」 目覚めたのだろう。かがみの驚いた風な声があがる。 「いつからそこにいたのよ! つか、ここ教室が違うじゃない!」 「え!え? い、いや、お昼休みになってもかがみが来ないから、 迎えに来たんだけど…?」 かがみの台詞にいつもの反射で答える。 もう自分自身にいっぱいいっぱいで、かがみの様子なんて見ることが出来ない。 …てか、やばい。こんな反応はいつもの私じゃない。 髪に触れられた程度のことで、女の子同士なのにこの反応は無いだろう。 いつもならうまく切り返して、かがみを弄る方向に話を持っていけるのに。 私が頭を抱えてぐるぐると思考している中、幾分か先に冷静を取り戻したのか、かがみは私をじっと見つめると、突然、すくっと立ち上がった。 私はかがみの次の行動が予測できず、ビクッと肩を跳ねさせほんの少し距離を置く。 「…あ、悪い。ね、寝ぼけてたわ。 すぐ支度するからあんたは戻ってて。 ん?どうしたのよ。 顔、赤いわよ?」 「……… ?」 返ってきたのはそんな台詞だった。 …覚えてない? かがみはまるで何事も無かったかのように私を促した。 …まあ、寝ぼけてたってのもあるけどね。 さっきのこと、なんだったのか聞いてみたい気もするけど… 「いや、なんでもないよ? 顔、赤い? あは、風邪でもひいたかな~? じゃ、私、先に行って待ってるから。 かがみも寄り道せずに来るんだよ!」 「お、おう…」 私はすでに教室の扉に向かって走り始めていた。 後ろ手でかがみをビシッと指差しながら、まるで悪役の逃走シーンのように台詞を吐く。 やや遅れ気味のかがみの返事を待たずに、私は廊下に駆け出した。 私はもう、我慢が出来なかったのだ。 かがみが、私の…! ってぇ!自重しろ。 ほんと自重しろ、私! 浮かんできたイメージを掻き消す為に大きく左右に頭を振り、真っ赤になった顔を隠すように腕を口元に当てた格好で廊下を全速力で駆け抜ける。 自分の教室なんかはとっくに過ぎてしまっている。 でも、止まれない。 今の私の状態で教室に戻ることなんか出来やしない。 「かがみが私の髪をほめてくれた! かがみが私の髪をほめてくれたぁ!! かがみが私の髪をほめてくれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 心の中での大絶叫! …私はわりと女の子らしい身嗜みとかおしゃれとか気にならないほうなのだが、この蒼髪だけは毎日大切に扱っていた。 …死んでしまった…お母さんと同じ、蒼い髪だから。 私にとっては遠いお母さんと繋がる接点といってもいい。 この髪だけは、なんの取り柄もない私が、唯一、誇れるものなのだ。 それを… 私自身といってもいいそれを… かがみが…! 綺麗って言ってくれた! ましてや、いい香りとか! とどめに…キ、キ!ーーーーーーーーーー! 再び、問題のシーンを思い出しては思考を停止させる。 いけない、鼻血が出てしましそうだ。 かがみはさっきのこと覚えてないみたいだったけど、 例え夢の中の出来事でも… いや、夢の中のことだからこそ、そこに隠された本心があった気がしてしまう。 …もう。 かがみのせいでこの髪を大事にする理由がひとつ増えちゃったよ。 しばらく、走ってようやく落ち着きを取り戻した思考に私は足をとめた。 校舎の離れにあるはずの体育館が、もうすぐそこに見えていた。 ははっ…ホント馬鹿だ。 私も案外、乙女だったんだね。 そう考えるとなんだか恥ずかしい。 さて、そろそろ戻らないと絶対に変って思われちゃう。 これは帰りも全力疾走するしかないね。 すぅっと深呼吸をしたあと、私はもと来た道へと駆け出した。 戻ったらきっとかがみに呆れられるんだろうな。 それで私がボケて、かがみがそれにツッコミをいれて… なんのこともない日常の切り取り。 それを想像しただけで私の口元に笑顔が生まれる。 かがみと知り合ってから一年とちょっと。この短い時間が私の人生の中で一番満ち足りていた気がする。 友達なんていう関係が、こんなにも楽しくて輝いているなんて… …きっと、昔の私には想像もつかないんじゃないかな。 …でも。 こんな楽しい時間は、きっと長くは続かない。 今、私たちは高校二年生で、卒業までは、あと一年と半年くらいしか残されていない。 受験勉強や、就職活動なんかやってたら一瞬で過ぎ去ってしまうだろう。 私はこの友情を一生のものだと思っているけど、かがみは違うのかもしれない。 きっと…かがみなら可愛いし面倒見もいいから、大学にいったらすぐに新しい友達を作っちゃて。 それから…彼氏…なんか作って… 私のこと、忘れちゃうんだろうな。 …しかたないよね。 女性である私が、かがみを独占することなんて出来ない。 まして、いくら仲が良くったって、流石にそういう意味で好きって知られたら、引かれちゃうだろうし… でもね?今は友達としてでもいいから、そばに居たい。 だからかがみん。 今だけは、 「大好き」 のまま居させてくれないかな? 離れるまでのほんの短い間だけれども、それが私の一生の思い出に出来るように。 いつか私が知らない誰かと結婚とかしても、ホントのココロはかがみにあげるから。 こんな自分勝手なわがままだけど、ごめんね?かがみ。 私はこの気持ちだけは否定したくはないから。 だって… かがみからもらった大切な… 私だけの… 初めての恋だから。 EpisodeⅠ‐B END EpisodeⅠ‐A ~刈り取る想い~へ コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-04 07 54 31) うおぉぉぉぉぉこなた羨ましいぃぃぃぃぃ← -- 名無しさん (2010-04-02 21 48 15) た、大作の予感!! 作者様、つづき楽しみに待ってます。 -- kk (2009-01-20 01 02 38) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「ついに…決戦の2月がやって来たわね」 「お姉ちゃん?何だか意気込んでるけど、今月に何かあるの?」 「意気込むも何も…2月よ、2月?一大決戦日があるじゃない!」 「えと、2月だよね?…なんかあったっけ?」 「良く考えてみなさいよ。あともう少しで…」 「もう少し………あ、そうか分かった!」 「全く…鈍いわね、つかさは」 「えへへ、ついつい忘れてたよ」 「ダメじゃない、あんたもみゆきに…」 「やっぱり2月と言えば“節分”だよねー!」 「っておぃぃ!?そっちかよ!!」 ―――決戦はバレンタイン(準備編)――― 今日は2月1日。 年を越えて1月もあっと言う間に終わり、気が付けば恋が色めく2月。 何故恋が色めくかって?そんなの決まってるじゃない。2月と言えば女の子にとっての一大イベント『バレンタイン』があるから。 とは言っても、当日までは2週間も猶予がある。焦るにはまだまだ早いと言って良いハズなのに…私の気持ちは既にその日のことでいっぱいだった。 「あー、バレンタインのことだったんだね」 「それ以外に何があるのよ。豆まきを期待してる姉なんて嫌じゃない!」 「けどお姉ちゃん、いつも力いっぱい豆まきしてるからね。てっきり好きなんだと………」 いつもの通学路を歩きながら、私はつかさの思い違いに訂正を入れる。 2月のイベントと聞いて節分が出るなんて、この子の精神年齢はいくつなんだ?てゆーか待て、私が無駄に豆まきとかを張り切ってることをバラすな! 「そ、それとこれとは話が別よ!それよりつかさ、あんたはみゆきにチョコあげるの?」 「んーとね、まだ細かくは決めてないんだけど…何か作ってあげれたらいいなって思うよ?」 つかさはみゆきのことが好きだから、当日にはきっと素敵なチョコ菓子をプレゼントするんだろう。 私はこなたに…何を渡せばいいのかな? チョココロネ?いや、これは流石にKYだな。 市販のを買ってあげるのが無難だけど…どうせなら手作りを贈りたいし。 「いいわね、あんたは得意で…」 「へ?」 「料理よ、料理。私はそーゆーの苦手だから、もし作るなら早めに考えてとかないと絶対無理だわ………」 料理がダメダメな私に、お菓子を作ることなんて0パーセントに近いと思う。 だから今の時点でこんなにも考え込んでるんだから。いくら勉強が出来たところで、こういう時に役立たないと意味が無いって痛感して、嫌になってきた。 家庭的なつかさを、唯一羨ましく思う瞬間かもしれない。 「んー、ならお姉ちゃん。今日から練習しようよ!」「へ?な、何を?」 「チョコ作るのを。今日からやれば前日には完璧になってるよ!」 「そ、そうかな…」 「そうだよ~!」 確かにつかさに教えてもらいながらやれば、それなりの物が期待できそうだ。 まだ2週間あるんだし、今日から頑張れば! 「…そうね。なら折角だし、ちょっとやってみようかな?」 「うん!私も出来る限りで教えるから…頑張ろうね。こなちゃん絶対喜ぶよー」「うん!」 こなたの喜んだ顔を想像しただけで、不安が吹き飛ぶ私はなんて単純なんだろう。寧ろただの馬鹿よ、馬鹿。 けど………こんな時くらいは頑張ってみてもいいよね? そんな秘密の特訓計画が立てられた直後、前方からこなたの姿が見えてきた。 「つかさにかがみ、おはよー。二人共何か熱心に話してたみたいだけど、どうかした?」 「な、何でもないわよ!」「えへへ~、禁則事項だよ」 「えー、二人ともケチ!」 こなたの疑問を適当に逸らしながら、私達は学校へ向かった。 廊下で二人と別れる時、つかさが私にそっと耳打ちをしてきた。 “何作るか考えといてね” そんなこと言われてもなぁ…お菓子作り超初心者の資格を持った私に、相応な案が浮かぶハズはない。 でも、ここらで一つ勝負に出ないと…。バレンタインは女の戦い、言わばチョコレートとの戦争なのよ! 「柊、次のページ読んでくれるか?」 「は、はい!チョコレート戦争ですっ!!」 「はぁ?」 「あ……ぇ………」 しまった…今は黒井先生の授業中だったんだ。 私ってば何唐突にチョコレート戦争なんて…。 クラスに響き渡る笑い声に、恥ずかしくて周りが全く見れなかった。 「柊…ボケっとせんと、ウチの授業を真面目に聞かんかい!」 「す、すいません…」 「せやけどそんなマニアックな戦争、よお知っとるな…」 先生が後付けしていたけど、チョコレート戦争とは実在した戦争の名前だったらしい…。とにかく、変な戦争妄想者だと思われないだけ良かった…か。 そんな辛い世界史の時間が終わり、救いの休み時間になった。 この時間を有効に使って、作るものを考えるとしよう。と思ったその時、廊下を歩くみゆきの姿が見えた。そうだ!みゆきなら何か良い案をくれるかもしれない。料理もそれなりに出来るし、学識もあるし…私でも上手に作れるレシピを教えてくれそうだ。 そうと決まれば急いで廊下を飛び出し、みゆきを引き止める。 「かがみさん?おはようございます」 「お、おはよ…みゆき」 「どうかされました?慌てていらしているようですが…」 「あ、あのね…」 な、何て聞けばいいかな?最近ブームのチョコってどんなの?…流石にここまでは分からないわよね。 こなたに何をあげれば喜ぶ?…ってのはストレートすぎて恥ずかしいし、みゆきに聞くことじゃない気が。あぁ!ならどうすれば… 「かがみさん?」 「あ、いや…あのね………」 あー、もう!こうなりゃヤケよ!!当たって砕けろかがみ! 「実はさ、好きな人にバレンタインチョコをあげたいと思ってるのよ。で、どんなチョコをあげたら喜んでくれるのかなって…。やっぱりある程度は凝るべきじゃない?」 「バレンタインですか…」「うん、チョコの種類とか作り方とかあまり知らないしさ…勉強したいなって」「そうですか」 「何か良い案ある、みゆき?」 「そうですね…」 みゆきは顎に手を当てながら考えるポーズを取っている。これは期待できそう!きっとこの聖人君子様なら、素晴らしき案を… 「…お恥ずかしながら申し上げますが、私から助言できることはありません」 「へ?」 ちょっと待て、聖人君子さん?いくらなんでも何も無いっていうのはあんまりじゃありませんか? 今日はお休みしたい気分なんですか?それとも私の料理レベルはもはや語るに至りませんか、ああそうですか。 私が顔を引き攣らせながらみゆきを見ていると、彼女は私とは対象的に満面の笑みを浮かべた。 「特に変な意味はありませんよ?」 「はぁ…」 「だってその人は…かがみさんが作った物なら何でも喜んでくれるハズですから」 「…!?」 そんな恥ずかしい台詞を、相変わらず満面の笑みで崩さないで言えるこの女はやはり聖人君子だった。とてもじゃないが侮れない。 とても簡単なことを、私に気付かせてくれた。形や質じゃなく、気持ちが大事なんだって。 私が頑張って作れば、きっとこなたは笑顔で答えてくれるんだって。 「頑張って下さいね。泉さんも楽しみにしているでしょうし。それでは、失礼しますね」 「う、うん!ありがとね、みゆき!」 ニコニコとその場を立ち去る姿はもはや神の領域。やっぱりみゆきに聞いて良かった。明確な答えは得られなかったけど、大事なことに気付いたから。 …そういえばみゆき、最後に泉さんって言ってたわね?私は一言もこなたのこと話してないのに………あの策士家め。 「気持で勝負よね、うん」 これ以上細かく考えても意味はないので、私はその後の授業はいつも通り真面目に受けることにした。 そして授業が終わり、今度は昼休みになりいつもの4人でご飯を食べることになる。つまり、こなたがいるので下手にバレンタインの話題を出していけない。 ついうっかり話したりしたら計画が台なしだもんね。そう考えて、そう思って必死だったのに… 「そういやもうすぐでバレンタインだよねー」 「ぶはぁっ!?」 こなたの口からいきなり出た言葉に、私は口の中の物を盛大に吐き出してしまった。 「ちょ!?か、かがみん…どしたのさ?」 「ケホッ……ったく、あんたがいきなりなこと言うからよ!」 咳込みながらつかさとみゆきを見る。 「お姉ちゃん、どんだけー」 「うふふ…」 つかさは良く分からないような顔をして、みゆきは余裕の笑顔だった。 ああ、平常心って羨ましい…。 「いやぁ、だってバイト先のイベントでね?その日はお客さんにチョコ配るんだって言ってたから…」 「あー、例のバイトね」 「いいよねぇ、無条件にチョコ貰えるなんてさー。どうせ私には関係ないんだもん」 そう言った途端、こなたの顔がつまらなさそうになったのが分かった。 私には期待してないってワケ…か? 何だか悔しい。 そして寂しい。 私がそんな日を忘れるハズないのに…。 ―――。 学校が終わり家に帰る途中、買い物をして適当な材料を揃えた。と言っても全部つかさ任せだったけど。 私はただの荷物持ちってとこ。いや、でも何事も雑用が肝心なワケよね! 家に着いて早速、私とつかさは台所に直行して、材料を広げる。 凄いな、この量は…流石はチョコレート会社の陰謀の日だけはある。 「あはは、沢山買いすぎちゃったねー」 「まぁ有るに越したことはないわよ。」 「そっか。じゃあお姉ちゃん、材料は用意できたから…何作る?」 「実はまだ決まってはないのよ…。ねぇ、つかさ。初心者でも簡単に作れるのって、何かな?」 「そうだねー…生チョコなんてどうかな?簡単だし、とても美味しいよ?」 生チョコ…響き的には全く悪くないし、バレンタインにピッタリな感じがする。私はこんな意味不明の解釈をしながら、自分を納得させていた。 「生チョコ…か。いいわね、それにしよ!」 「うん!それなら…私が先に作ってみるね」 「つかさ、頼んだわよ」 そう言うとつかさはテキパキと必要な材料と道具を選び出し、準備を始めた。 ヤバイ…この段階で少し追いつけてない。 「チョコをね、こうやって細かく刻んで…」 たちまちチョコが細かくなっていく。この子に包丁使いは一生叶わないだろうな。 「湯煎で溶かすんだよ」 湯煎って何だろう? ボウルが二枚重なってるのは仕様なのか…それともつかさのボケなのか? 「溶けたら次は生クリームを入れて…」 あれ?生クリームってあんな液状だったの?牛乳と間違えてるんじゃ… 「ここでワンポイント。ハチミツを入れるともっと美味しくなるんだよ」 チョコだけでも甘いのに、ハチミツだなんて…また体重が増えるじゃない。あ、私が食べるんじゃないか。 「後はチョコが固まらない内に…クッキングシートを引いたバットにチョコを流し込む」 か、紙の上にチョコ流して大丈夫なの!? そのままプレートに流せばいいんじゃ… 「後は冷蔵庫で半日冷やす。固まったら一口サイズに切って、ココアパウダーを塗して完成だよ」 あれ…もう完成だったの?私ってば何一つまともに覚えて……… 「お姉ちゃん、何か分からなかったとこある?」 「いやぁ、あはは…」 ありすぎて聞くのが恥ずかしくなる。 ただ視線を逸らして、苦笑するしかなかった。 「まぁ見ているより、やってみた方がいいよね。お姉ちゃん、絶対上手くいくから頑張って!」 「わ、分かった…やれるだけやってみるわ」 「その意気だよ、ファイトー!」 私の戦いはまだ始まったばかり………と言うか寧ろ今から始まるところ。 決戦本番は2月14日。 見てなさいよ、こなた。 私は絶対にあんたを喜ばせてみせるんだから! ―バレンタインまで、あと2週間― 決戦はバレンタイン!前日編に続く コメントフォーム 名前 コメント
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卒業式。新たな旅立ちのためへの一つの区切り、つまり今まで過ごした日々との別れ。 過去二回の同じような儀式は正直に言ってほとんど覚えていない。 それはきっと小学校で過ごした毎日と、中学校で過ごした毎日を失うことにあまり思い入れがなかったからだと思う。 友達がいなかったというわけでもなく、早く大人になりたかったというわけでもなくて。 ただ単純にその日に何かが変わったのだと感じることができなかったからだ。 だけど今日は違う。忘れられない日になる。 つかさが予想通りに泣いていてなんとなく羨ましいなと思ったこと。 大人びたみゆきさんの、年相応の可愛らしい泣き顔。 名前もろくに知らない同じ境遇の人たちの弾んだ空気の中に確かに含まれた別れを前にした様々な思い。 それらはどれもこの日に相応しく、これこそが卒業なんだと思わせるけどそういう意味ではない。 今日という日に私は大切なあなたと一つのけじめをつけようと思います。 数百という卒業生が一堂に会した体育館を一歩外に出てしまうと、いろんな響きを乗せた声は吹き抜ける風にかき消される。 私は人の涙を見て楽しむような趣味はなくうるさいのも嫌いだから、たとえ日陰で草木に囲まれた場違いなところに佇んでいるのも関係ない。 冬の間はすっかり裸になってしまっていた木々も今は緑の葉をつけているあたりに一年のサイクルを思わせる。 葉をつけ花を咲かせ、そのどちらも散らせたあと、また時期がやってくると繰り返す。 ほとんど変わることのない、何年にもおよぶ循環。でも私たち人間はそうはいかない。 一年もあればどれだけ変わることができるだろう、たった一日24時間だけでもう前日の自分ではなくなっている。 身体的な特徴はまだ変化しにくいものだけれど、心というものは些細なことで変わってしまう。 それが悪いものだなんて思ってないけど、永遠があってほしいと願ってしまった。 願いは自分で叶えるものであるが、私のそれは儚い希望に過ぎない。 それが二人にとって一番なのだと、わかるはずもない気持ちを自分の物差しで考えていた。 「ごめん、待った?」 思い思いに写真を撮ったりこれからの約束を話し合うのが通常とするこの時間にわざわざ人の寄りつかない場所に来る者などいない。 私の待ち人柊かがみがそこにいた。 しばらく時間をおいたのは彼女も例に漏れず友と思いを交わしていたのだろう。 それを私に咎める権利はないし、ただ用件を告げて終わりというような急ぐ気持ちはさらさらなかった。 「気にするほどでもないよ」 「確かに。待ち合わせに遅れるのはあんたの専売特許だもんね」 どんな状況でもこうしてふざけ合うことができるのはとても居心地が良い。 この日の当らない場所に不釣り合いな、今日巣立っていくという自覚のある強い眼差しに思わず見惚れていたことに気づかれないように。 まだまだ子どもだと思われるとわかっていながらふてくされた表情を作る。 もう一度、かがみは笑った。卒業式の余韻を残した綺麗な笑みだった。 それに目を奪われ、体の奥から熱が込み上げてくるのは仕方のないこと。 移り変わりやすい心なれど、大きく膨らみすぎた気持ちはそう簡単に無視できるものではない。 風になびく二つに分けた髪を抑えながら、かがみは何も言わずじっと私の言葉を待っていた。 「今日で卒業だね」 「そうね」 「三年間、かがみと過ごした毎日は楽しかった」 出会った当初は今のように自分をさらけ出すことができるなんて想像もしていなかった。 オタクだなんだ、勉強もしないだらしない私を、それでも全て受け入れてくれたかがみ。 二年の時の数えきれない思い出。お祭り、海、お泊り会、初詣など。 たとえ大層なイベントごとがなくとも、通学路や休み時間、放課後といった一緒に過ごした時間は今も輝いている。 ただあなたといられるだけで、私は幸せな日々を送ることができたんだ。 「そうね、私もこなたと一緒に過ごした高校生活は忘れられないと思う」 一年以上前だったら「つかさとみゆきと……ついでにあんたも」って言ってただろうな。 かがみが正直にそう言ってくれることは嬉しくて、またくすぐったさもある。 慣れない素直に気持ちを伝えることにどこか恥ずかしそうなかがみに、私は今一度感謝の気持ちを伝えた。 「奇跡みたいなもんだよネ。かがみと出会えたことに感謝しないと」 運命だとかは信じないし、奇跡なんて安っぽい言葉も嫌いだけど、この出会いは何物にも代えられぬ大切なもの。 柄にもない私の言葉にかがみは笑う。何の屈託もない可愛らしい笑みだった。 その笑顔を見てまだ私は考え直すべきだという思考がよぎる。 確かにこの笑顔があれば他に何もいらないと思っていた時期もあった。今でもそう信じたい気持ちがある。 だけど遠く離れてしまわぬうちに、笑顔を変えてしまわぬうちに。 「かがみ、ありがとう。それから……ごめん」 「えっ……?」 ひどく不快な静寂を紛らわすように、ひと際強い風が音を立てて吹き抜けた。 去年の夏頃から私たちの関係は友達から恋人へと変わっていた。 同性愛ということも気にかけることなく、間違っていると諭されても頑として譲らないで。 実際反対らしい反対はされなかった。確かに幾度となく話し合ったけれど、一方的に拒絶されたわけではなく想いの確認という意味で。 だから身近な人は少なからず認めてくれる感じがあって、私たちもそれを裏切るつもりはなかった。 キスもしたし、体の交わりもあった。想いは冷めるどころかどんどん強くなっていった。 ……それでも少なからずあった不安はぬぐえずにいた。 今でも、この先も残るだろうかがみへの想い。それは嘘偽りなんかじゃない。 そもそも受け入れるのに生半可な覚悟では済まないだろう将来を予測した上で告白を受けたのだ。 ここにきて足りないのは何なのだろう。それはきっと自分の強さだ。 秋頃、もう進路をどうしようなんて迷っている場合じゃない時期、それでも私は迷っていた。 私を除くクラスの全員が心に決めた目標へ向かってひたすら突き進む日々に、私はあてもなくさまよっている。 動機はとても不純なものだ。大学に入っておけばなんとかなる、かがみが勉強するから私もしようと。 一緒に遊ぶ余裕がなくて勉強に時間をあてることがほとんどだし、今すぐやりたいことが見つかるわけでもなくて。 ちゃんと自分に合ったレベルのところには合格できた。確かに努力した証は残っている。 でもそれは、おそらく社会に出ていく上で何の足しにもならない脆いものだろう。 「かがみは弁護士を目指して頑張っている。大変だろうけどかがみならできると思うよ」 つかさもみゆきさんも、それぞれが選んだ道をしっかりと歩み続けて行くことだろう。 でも、それには本当に大変な労力と時間を費やさなければならないだろう。そこに私がいてはダメなんだ。 「別に会おうと思えばいつでも会えるでしょ。今までと変わらないんだし」 どちらかが一人暮らしを始めるわけでもないから、まだ延長線上にいる。 それは言ってしまえば甘えに過ぎない。いつまでもかがみに寄りかかっていられるという甘え。 これからさらに勉強量が増えるかがみと、たぶん余計にできた時間を遊びに回す私。 もともと受験勉強の段階から開いていたその差はきっと埋まることはない。 今までだってそれを卑下されたことはないけど、かがみの優しさでしかないと知っているから。 そして、一番の問題は時間じゃないんだ。 「法律で守られていない以上自分の身は自分で守らなきゃいけない。でも私たちにはまだそんな力ないでしょ」 「それはっ、今すぐどうにかなる問題じゃないじゃない……っ」 かがみの悲痛な、あまり見ることのできない強い表情にひるみそうになる。 だけど、やっぱり一時の感情には流されてはいけないと、それはかがみのためにならないと言い聞かせた。 ──かがみのためとか言って、自分が傷つきたくないからじゃないの? 人の心なんて計り知れないものだ。もしかするとこの選択が一生かがみの心に残るものになるかもしれない。 そして私自身の心にも。すでに大きな痕を残しているのだから。 だんだんと離れて行って会えなくなるのが怖い?違う、そんなんじゃない。 本当は離れていても心は繋がっているんだと、そう信じたい気持ちがあるんだ。 「五年後、十年後になるかわからないけど、一人前の女性となったその時でも」 今から過ごす大学四年間を何を犠牲にしてもあなたを想い続ける覚悟は私にできているのかな。 あなたは何を犠牲にしても私のことを思い続けていてくれていると自惚れてもいいんですか。 信じたい気持ちは今でもある、ちっぽけな覚悟も持っているはずなのに。 心という移り変わりの激しいものは、私自身が持つ気持ちの大きさでは信頼に足らなかったのだ。 「変わらずに好きだと言ってくれるのなら、一生を共に生きると誓うよ」 でも、私が胸を張ってあなたに会いにいけるようになるまでは。 「親友だったあの頃の私たちでいよう。これは別れじゃなくて、強くなるための契り」 ただ恋人から親友に戻るだけ。今日が最後ってわけじゃない。 まだ見ぬ未来、あなたの隣に立っているのは私であってほしいと望むけれど、もっと相応しい人もいると思う。 私の中に残り続ける火種は、消さないで代わりに糧とするから。 対等な人間であるために、隣に立って幸せにすると堂々と生きて行くために。 世の中に生きる一人の人間としての挑戦、これからもう二度とないかもしれない恋人の証が始まりの合図。 この熱さは一生忘れることができないだろうと、澄んだ青空の下、思っていた。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b 再び関係が戻る事を願う限りです! -- 名無しさん (2023-08-07 00 07 26) 微妙。 -- 名無しさん (2010-04-07 09 06 16) いつもかがみの隣にこなただ!! -- 名無しさん (2009-09-01 20 27 10) せつねぇ・・・でも数年後、かがみの隣に居るのはこなたです! GJ!! -- kk (2009-08-08 00 59 14) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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―私には好きな人がいる。 え?どうせいつもみたくエロゲのキャラとか二次元だろうって? ふふーん、残念ながら今回はそうじゃないんだよね。驚いた?そりゃそうだよねー。だって自分自身が1番驚いてるんだからさ。 まさか私がこんなにも………あ、そうこう言ってる間に来たみたい。 「おーす、来たわよ」 「さっすがかがみ。ご飯となれば行動が早いねー!」「うっさい」 「お姉ちゃんいらっしゃい!」 「お待ちしておりましたよ」 お弁当を片手に私たちの教室に入ってきた女の子。 薄紫の髪は左右で綺麗に纏められて、彼女の存在をより一層引き立たせている。 ―柊かがみ。 それが彼女の名前。そして私の想い人。 同性には興味がないんじゃなかったのかって? うーん、確かにそうなんだけどさ。彼女は…かがみだけは特別なのかもしれない。 だって私をここまで魅了する女の子に出会ったのは初めてだから。 これが運命の人ってやつなのかな?まぁ、あくまで私側の考えとしてだよ?だって、かがみが私のことをどう思ってるかは分からないし…。 「今日のお弁当はつかさが作ったのかな?」 「うん、そうだよー」 「流石はつかさ!誰かさんと違ってお弁当にも華があるねー」 「…あんたは私を怒らせたいのか?」 「いやいや、これはかがみからの手作りお弁当フラグを立てているのに他ならないのだよ」 「はいはい、良かったわね」 「私を見返す為、夜中に必死で料理の練習するかがみ萌えー」 「や、やらないわよそんなことっ!勝手に変な妄想するな!」 普段はこんな風に少しキツイ性格で怖いけど、本当は友達想いの優しい人だってことは良く知ってる。 だから、かがみの周りには自然に人が集まるし…皆はかがみのことが大好きなんだ。かがみだって皆のことを大事な友達だって思ってるんだろう。 そしてきっと…私もかがみにとってはその友達の中の一人なんだと思う。 「お姉ちゃん、次の時間にこの問題が当たりそうなんだけど…」 「どれどれ、見せてみな」「おーい、柊ぃ!」 「ん?日下部に峰岸じゃん。何か用?」 「特に用はないんだけどね…お昼食べ終わって暇だったから、みさちゃんが行ってみようって」 「ふーん、そうなの。まぁ折角だし座ったら?」 「それじゃ遠慮なくー」 誰にだって同じように接するかがみ。周りから見れば、とても中身が出来た子なんだと思う。 だけど私はそれを良い風には思えない。だって… ―私はかがみの特別になりたい。 こんな愚かな考えがいつも頭を駆け巡る。 友達に…特別も何もない。だからいつまでも友達でいられるんだから。 「柊ちゃん、そろそろ休み終わるよ?」 「あー、もうそんな時間か。じゃあ私達は戻るわ」 「またなー」 「また後でね、お姉ちゃん」 本当はもっと一緒にいたかったけど、クラスが違うのでそれは叶わない。 私とかがみが一緒に過ごす時間なんてたかが知れてる。だから… 「あ、かがみんかがみん!」 「何よ?」 「今日の放課後付き合ってー」 「あんた、また何か買うのか?」 「まぁそんなとこー」 「ったく、しょうがないわね。いつものとこ?」 「うん」 「分かった。じゃあまた放課後ね」 こうやって、何かと理由を付けてはかがみと過ごせる時間を作る。 我ながら何とも女々しいことをしてるけど、なりふり構ってはいられない。 少しでも多く、かがみといられたらそれで…。 ―――。 「今終わったわよ」 「かがみ待ってたよー」 学校での長い一日が終わりここから自由な時間。 放課後ならかがみと長くいられる…そんな考えが私の授業での疲れを吹き飛ばした。 「それじゃあ行こっか。つかさも来るでしょ?」 「あ、そのことなんだけど…」 「どうかしたの?」 「今からね、ゆきちゃんと勉強会することになったの」 「へぇ、えらく急ね。みゆきから誘われたの?」 「うん。だから今日はお姉ちゃんとこなちゃんの二人で行ってくれたらいいよ」「そっか…それなら二人で行こっか?こなた」 「………」 「こなた、聞いてる?」 「え!?き、聞いてるよ!うんうん、つかさとみゆきさんの逢引を邪魔しちゃいけないし、二人で行こう!」「こここ、こなちゃん!?」「ふふ…冗談だよ、冗談」「もう、こなちゃんってば…」 「ほら、馬鹿やってないで早く行くわよ」 「あ~、待ってよかがみー!」 つかさの思いがけない急用のおかげで、今日はかがみと二人きりということになった。 やばい…さっきからニヤニヤしっぱなしだよ、私。 おまけに変に動揺しちゃってる。 買い物をしている間、私がかがみの顔をまともに見れなかったのは、言うまでもないんだろうね。 ―――。 「今日も大漁大漁ー♪」 「あんたってば…何処からさんなお金が出るのかしらね」 「金は天下の回りものって言うじゃない?使わなきゃダメだよー」 「ならもっと為になることに使いなさいよ」 「ダメなのだよ、かがみ君。数々グッズ達が私を助けを求めているのだから!」「はぁ、頭が痛くなるわ…」 帰り道、大きな袋を下げながらゆっくりと歩く。 というか、かがみが私のペースに合わせてくれてるんだけど。こーゆーとこが優しくて惚れ直しちゃうんだ。 ホントにさ…これ以上好きにさせるのはやめてほしいよね。 今の関係、大事にしたいもん。もちろん、これ以上の関係になれるなら話は別だけど…。 「かがみはさー」 「んー?」 「好きな人いるの?」 出してはいけない話題のハズだった…だけど突然口から零れてしまった。 「はぁー!?あんたいきなり何聞くのよ!」 「いやいや、やはり女性は恋愛話が好きなのではと思ってね」 「あんたも女でしょ!」 「ん?まぁそうだったかもね。それよりどうなのさー?」 もしかしたら…なんて期待してる自分がいる。 何してるのさ、ホント。 馬鹿を通り越して呆れるね。 「い、いきなりそんなこと言われても…」 「いいねぇ、恥じらうかがみ萌え」 「うるさい!そ、それよりこなたはどうなのよ?」 「私?」 「あんたからそんな話は聞かないからね、いい機会だわ」 ここでいないって言えば話は終わるのかもしれない。また明日からは笑ってオタク話が出来るんだろう。 自分の気持ちを、ただ隠し通せばいいだけ… 「私はいるよ、好きな人」「え!?ほ、ホントに!誰なのよ、それは」 「言っていいの?」 「だって気になるし…」 「聞いて後悔しない?」 「そんなもんしないわよ!」 「それじゃあ言うね」 「うん」 そんなに目を輝かせて私を見ないでよ。 私の口からは、かがみの望んでる言葉は多分出ないよ? 「………かがみ」 「へ?」 「…だから、私はかがみが好きなんだってば」 「………ホントに?」 「この雰囲気で冗談言う程空気読めなくはないよ」 「…だけど私は女だし………」 「関係ないよ。好きの気持ちに性別なんて。私はかがみの気持ちが聞きたい…」「…………」 「…かがみ」 「わ、私は………」 ―――。 知らずに後悔するか、知って後悔するか、どちらかを選べと言われたら…私はどちらも取りたくない。 どちらにもリスクは存在するし、それなりメリットだってある。だけど最後には後悔に行き着くんでしょ? でも人は知りたがる。 必然的に後者を取ろうとする。私がそうであったように…。 ―――。 かがみとの買い物を終えた後、精神的に疲れきってしばらく眠っていたらしい。頭がボーッとして上手く働かない。 「顔洗お…」 フラフラと立ち上がり洗面所へと向かう。 洗面台の前に立ち、蛇口に手を伸ばそうとした瞬間…ふと鏡に映った自分が目に入った。 胸から上しか映らない小さな身体。 ボサボサになった髪。 眠たそうに開かれた目。 一文字に結ばれた口。 こんな私の姿、かがみにはどう映っているんだろう。無愛想な子に見えるのか、それとも幼い子供みたいに見えるのか。 私がそれを知る時が来る? ―かがみの目に、私だけが映る日は来るのかな…。 蛇口に再び手を伸ばし、適量の水をだす。 それを両手に溜めて勢いよく顔を洗った。 そして濡れた顔のまま、もう一度鏡を見る。 頬を何かが伝っている気がした。水のような何かが。 鏡を見ても何も変わらない。何も変わらないはずなんだけど… 目の前の鏡に写った自分は泣いているように見えた。 fin. コメントフォーム 名前 コメント GJ!泣 -- 名無しさん (2022-12-27 01 44 07) 切ない(;_;) -- 名無しさん (2010-03-06 22 30 22) 今まで読んだ中で一番切ない… -- 名無しさん (2008-10-03 23 23 52) 悲しい話ですねぇ。 -- 名無しさん (2008-08-27 00 16 28) 切ねえ・・・ -- 名無しさん (2008-02-13 09 21 02)
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テスト終了のチャイムが鳴り響く 体調不良のせいか頭の回転がやけに遅く、集中力も続かなかったこともあり、問題を解く速度はいつもより大分遅かった 幸か不幸かテスト自体はいつもの通りできたと思う その分体調は悪化してきたが…… 今日は早く帰ろう と早めに席を立ったのだが 「柊ぃーテストどうだった?」 「……まぁまぁよ」 日下部と峰岸に捕まった 「そう言って軽く8割取るんだから狡ぃよなー」 私には無理だとケラケラ笑う日下部 その横で頑張れば大丈夫よと励ます峰岸 「何よ?用事は?」 「そうだった、試験も終わったことだし、この前出来た喫茶店に行こうかなって。だから柊も来い!」 「来い…って命令形かよ、私は今日行けないわよ」 いつもならこの気の良い中学時代からの友人達と付き合うのだが、自分も辛いし、何よりもあまり長く一緒に居て風邪を移したくなかった 「何だよーまたちびっこかよ?」 「違うわよ、本当に今日は無理だから」 「……!?そうか!男だろ!?」 「違うって言ってるじゃない!」 怒鳴ったらまた辛くなってきた そう思った次の瞬間 「なぁ良いだろー今日位は一緒に行こうぜ―」 突然日下部が抱きついてきた 思わず振り払って距離を置く あんなに近づいていたら間違いなく風邪は移るだろう ふぅ…とため息をつき顔を上げると 驚き傷ついた顔の日下部がいた 「柊?」 「今日はあまり近づかないで」 「ひ、柊ちゃん!!」 「わかったよ……もぅ誘わないかんな!柊なんて大っ嫌いだ!!」 風邪が移るから、と続ける前に走り去る日下部 残された峰岸がこっちを見てる、その視線だけでこっちを責めているのが判る 「柊ちゃんらしくないよ?みさちゃん最近柊ちゃんが根詰めすぎだっ!て心配してどうすれば気が晴れるか一生懸命考えてたのに…どうしてみさちゃんにあんなこと言ったの?」 「はぁ……」 本日何回目かわからないため息をつき、昨日の徹夜で体調を崩した事、だから今日は早く帰りたい事、風邪を移したくないから余り近づいてほしくなかった事 とりあえず全て話した 「もぅ!そういう事はちゃんと説明しないとダメだよ?」 「解ってるわよ、次会ったときにでも謝っておくわ」 「それに体調が悪いなら無理して学校来ちゃ駄目だよ?」 「徹夜で勉強したのにもったいないじゃない、どのみち週末だから…」 「柊ちゃん?」 「……解ったわよ」 みゆきもそうだが、普段おとなしい人に限ってこういった時に凄みがあると思う 「それでどの位熱があるの?」 「朝は38℃位だったかしら?」 どれどれ、と峰岸の顔が近づいて来る 額と額が合わさる 冷たくて気持ち良い 思わずそう考えていたら 「うわぁあぁぁあ!」 叫び声と共に風の様に現れたこなたに腕を捕まれ引っぱられるように教室から連れ出される 熱のおかげで上手く動かない体で抵抗出来る訳もなく、何とか自分の鞄を手に引っ掛け、こなたにそのまま連れていかれた ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 私は一人教室に取り残された 頭に浮かぶのは二人の友達 柊ちゃん凄い熱だったけど大丈夫かしら? 後からきた泉ちゃんがもの凄い勢いで引っ張ってったから大丈夫かな、と自己完結 私はもう一人の友達に事情を説明するためにも携帯電話を開いた ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ こなたに腕を牽かれ廊下を走る 体調のおかげで、いつもの下駄箱までが果てしなく遠く感じた 「はぁ…はぁ……」 「あっ!ごめん!!」 こなたは引っ張ってきた事に今さら気がついたかのような顔をして手を離した 走ったせいだろう、熱が上がり頭がぼーっとする 深呼吸して息を整えようとしてみたが、整う気配がないので構わずに口を開いた 「別に…良いけど、どうしたのよ?」 「いや~その、かがみは‥さっき峰岸さんと何してたの?」 峰岸?何でここで峰岸が出てくるのだろう? そんな疑問を感じつつ先程までの自分を思い返してみるが、頭の回転が悪い為か所々で記憶があやふやになっている たしかこんな感じで… 「……こうしてただけよ?」 こなたの頬に手を伸ばす、頬に触れた瞬間ビクッと体が反応した そのまま顔を近づけ額をくっつける 当たった額から伝わる熱が気持ち良い、と思うと同時に自分の今の状態を思い出す 「かがみ様?貴女は一体全体何をなさっていられるのですか?」 「何って…アンタがしろって言ったんじゃない」 こなたの去っていく熱を名残惜しいと思ったが、そのせいでこの小さな親友に風邪を移したくはないので、ゆっくり額を離し、靴を履き替えると同時に不自然ではない位の距離をとる 一方のこなたはというと気の抜けた表情をしていた 「かがみは峰岸さんとキスしてなかったってこと?」 「……逆に何で、私と峰岸がキス‥しなくちゃ、いけないのよ?」 質問の意図が判らない、何でこなたがこんなことを言い出すのかが判らない 熱でぼーっとして考える事自体が面倒になってきたが、自分をここまで引っ張って来たのにも理由があるはずだ 「結局…何の、用事だった‥のよ?」 「そうだった!今日みんなでカラオケ行くんだけど、かがみも行く?むしろ来い!!」 何でこういう日に限って誘いが多いのだろう?テスト最終日だからみんな遊びたいのか?というよりまた命令形?みんなでカラオケは楽しいだろうな、でも風邪は移したくないな…… 「……ごめん、今日‥は、無理」 「え?」 私は何を考えているのだろう、思考がまとまらずに暴走している 急に頭痛が酷くなってきたので思わず頭に手を当てる 「今日……に…理なの?」 こなたの声が急に遠く聞こえた 頭痛は時間が経つに連れて増す一方で 「……うん」 返事を返すので精一杯 「何か…事?」 「……うん」 「……ま……………でも……た?」 「……うん」 もうこなたが何を言っているのかも解らなかった 聞こえてくる音に反応して相槌を打つのもそろそろ限界 自分の事で迷惑掛けたくなかったんだけどな… 気を抜くと倒れてしまいそうな体、熱で働かない頭 限界はもう直ぐそこまで迫っていて 「ごめ、…もう…無理」 重力に従い崩れ落ちる体、薄れてゆく意識、消えかけた視界が最後に捉えたのは、涙を浮かべながら無理に笑おうとしているこなただった 無題(H2-209氏)(仮)3へ コメントフォーム 名前 コメント GJ!! -- 名無しさん (2023-06-23 22 10 18) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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猫が虎になり、犬が狼になる。そんな例え話があるけれど、現実はそう上手くいかない。 何故って?それはやる気の問題でも能力の問題でもない。 「ここがbベクトルとcベクトルで表せるって所までは分かるわね?」 「んー・・・」 「てゆうか、あんた私の話聞いていた?」 「いやー、この時間帯になると深夜アニメが気になる頃でね・・・」 「ちょっと待て!こなたから勉強教えてって言ってきたんだろ!?」 「そうなんだけど、やっぱり気になるものは気になるんだよね。」 習慣って怖い。せっかくかがみが勉強を教えてくれているのにアニメが気になる私。 高校三年生。進路。大学受験。勉強の毎日。けれど私の日常は変わらない。 「全くあんたってヤツは・・・」 「だいたい好きな人と一緒に勉強するというシチュで集中できる人なんていないと思わない?」 「なっ!何言ってんのよ!?」 「おー、照れてる照れてる!可愛いヤツめ。」 「うるさぁーい!ほ、ほら明日模試なんだから勉強しないと・・・」 「じゃ明日の模試に支障をきたさないようにアニメ見なきゃ。」 「話が食い違っているし、意味が分からん!」 アニメを見て、ネトゲーをして、ギャルゲーをして。そしてちょっと同居人をからかう。 変わらぬ毎日。窓から見える夜空も、フル稼働するクーラーの音も昨日と変わらない。 「それにしても今日も暑いねー。嫌になっちゃうよ。」 「だってもう8月も半ばだしね。アンタ、昨日おへそ出して寝てたわよ?」 「む・・・てかなんで知ってるの?」 「えっ?あ、あの・・・それは・・・」 しまったと言わんばかりの顔。顔が真っ赤なのは真夏の暑さじゃないよね? 「きっとかがみは、私が夏風邪を引かないように布団を掛けに来てくれたんだよねー?」 「わ、悪かったわね余計な事して・・・」 住み始めとは180度異なる居場所。言い換えれば変わった私の在処。それがとても居心地がいい。 甘える事ができる私。甘える事ができる人。甘える事ができる場所。とても、楽で、幸せな空間。 「ふふふ。今日もよろしくねかがみん!」 「はいはい・・・」 幸せ過ぎて、変われない。大切過ぎて、捨てられない。そんな空間と私。 そんな事を考えながら、テレビに映る動く絵をただ、眺めていた。 ☆☆☆☆ チクタクチクタク・・・遅いようで早い秒針が回る。あっという間に1秒。 教室の窓から世界を覗く。空には1本の飛行機雲。そして夏らしく照る太陽。 3年生の教室から見えるグラウンドには元気よく体育をする1年生がいた。 「いくよーみなみちゃん、パース!」 「ふぐっ!?さ、流石みなみちゃん・・・やるっすね・・・」 「oh!ダイジョーブ?ひよりん?」 可愛い後輩がはしゃぐ姿。何も考えないで今を楽しむ彼女たち。何だか羨ましい。 可愛らしく微笑む紅。綺麗に笑う薄緑。苦笑いする黒。眩しく笑う金。これがゆーちゃん達の空間。 もちろん私にも存在するそんな空間。楽すぎて、楽しすぎて、幸せすぎる場所。でもその場所が永遠なわけがなくて。 『みゆきは医大、つかさは料理の専門学校だってさ。』 気がつけばもう3年生。クラス、学年の皆目の色を変えて勉強している。 もちろんみゆきさんも、つかさも。受験一色、8月の暑ささえ気にならないように。 『え?私?んーやっぱり法学部かな。ここの大学がいいな。今住んでいるアパートからも近いし、就職率も高いし。』 かがみだって、例外じゃない。勉強の話、大学の話がかがみの口から出た時、とても寂しくなった事を覚えている。 『他の学部はそんなに難易度高くないけど、法学部は特別偏差値が高いから、一生懸命勉強しなきゃまずいんだよね・・・』 皆、変わってゆく。ゆっくりなスピードだけど、確実に。そんな中、私は皆の、かがみの背中を見ている。 楽したい。メンドクサイの嫌い。甘えたい。困った時の人頼み。これが言わずと知れた私のモットー。 だから変われない。ううん、これだけが理由じゃない。本当の理由は別なんだ。 『そういうアンタはどうなのよ?』 初めて、正確には2つめの私の幸せの在り処。叶うことならずっと、変わらないでほしい。永久に、永遠に。 でも、そんなに上手くいかないのが、現実なんだよね。皆で一緒に帰る日も、皆で遊ぶ日もだんだん減ってゆく。 かがみとも、ゲマズ行ったり、一緒に夕飯作ったり、何気ない話をしたりする時間が失われてゆく。 どうにもならない現実。ちょっとした鬱。これで私の歩みを止めるには十分だった。 『んー何とかなるよ。』 本音は内緒。いつもの『こなた』でいるために。でもそんな自分に嫌気がさす。 ただかがみの背中を見ているだけの私に、今を変えようとしない自分に。そして。 「試験終了まであと5分やでー!もがくだけもがいとけー!」 模試まっただ中なのに、解答用紙が真っ白な自分に。 ☆☆☆☆ 「おーっす。どうだった?」 「私はやっと目標の点数まで上がったよー!ゆきちゃんは?」 「私もぎりぎりボーダーを越えました。思ったより点数がよくて嬉しいです。」 自己嫌悪は未だ終わらない。空っぽの心に流れ込む鬱の水。それはとても冷たい。 「ま、立ち話もなんだし帰りながら話さない?」 この提案は嘘じゃない。でも勉強の話をこれ以上聞きたくなくて。本当は分かってるんだ。 ちょっと逃げてみたって冷たい水は温かくはならない。でも逃げずにはいられなかった。 「あの・・・すみません泉さん。今日は黒井先生と面談がありまして・・・」 「私も図書館で調べ物しなきゃいけないの。ごめんねこなちゃん・・・」 あーそんな顔しないで、つかさ、みゆきさん。あなた達は悪くない。 それにそんな顔されると寒いくらいになっちゃう。冬の日の水の様。 「それは仕方ないよ。頑張ってね二人とも。で、かがみ様はもちろん一緒に帰ってくれるよね?」 全くあんたは。そうため息交じりにかがみはさりげなく突っ込む。 いつもの様に突っ込んでくれたのは、嬉しかった。今の私には染みわたる温かさ。 でも、かがみと目が合った瞬間、分かってしまった、かがみの返事。 「悪いけど今日は、日下部と峰岸と一緒に勉強する約束してるから、今日は・・・」 「そっかそっかー。じゃ私は先に帰るとするよ。みさきちと峰岸さんによろしくー。」 「あっ!ちょっとこな・・・」 「んじゃ頑張ってねー。さらばじゃ皆の衆!」 あんたは何者よ。そんなかがみの言葉も今の私には意味をなさない。私は廊下へと駆ける。 あの場にいるのがとても辛くて、今の私がかがみの傍にいていいのか不安で。 あー、情けないな。何とかしたい現状。でも何をしたらいいのか、何をしなくちゃいけないのすら分からない。 ねえ、かがみ?どうしたら私はキミと肩を並べられるのかな? 「あ、おねーちゃん!!」 「ゆーちゃん、とみなみちゃん。」 「珍しいね、今日は一人なの?」 「うん、まあ、ね。」 ゆーちゃんの笑顔が眩しい。そして何よりもその眩しさが羨ましい。 「じゃあ今日はみなみちゃんもいるから3人で帰ろうよ?」 「え?でも・・・」 「いいよね?みなみちゃん?」 「・・・うん・・・もちろん。」 「ね?じゃ決まりだね。」 ☆☆☆☆ 気がついたら、いつの間にか、流されていたら。そんな感覚で今に至る。 相変わらず日差しが強い。聞こえる蝉の断末魔。ダルそうに流れる雲。いつもと変わらない。 いつもと違うのは隣にゆーちゃんとみなみちゃんの姿があるだけ。 「・・・でね、パティちゃんと田村さんが騒ぎ出してビックリしちゃった!」 「・・・うん・・・あれは、驚いた。」 「さすがパティとひよりん。アウトローの名は伊達じゃないね。」 こうしている間にもかがみは私よりも早く、前に進んでいる。 何か、何かしなきゃ。そう思えば思うほど分からなくなる現実。あー頭痛い。 「・・・先輩・・・体調、悪いんですか?」 「え?あ、いや、大丈夫だけど・・・」 「そういえば元気ないね、おねーちゃん。」 可愛い後輩の二人にも心配をかけちゃう私。何がしたいんだろう。憂鬱は増すばかり。 ただいつもの様に笑って、ふざけ合って、一緒にいたいだけなのに。 「かがみ先輩がいないからかな?なーんて・・・」 「え?なんでかがみ?」 「だって、ね?みなみちゃん。」 「・・・うん。先輩達、一緒にいる時、とても幸せそうだから・・・」 し、あ、わ、せ?しあわせ?幸せ?そっか。なるほど。私、覚醒。 正直、私は面倒事を出来ればやりたくない。楽したい、人生楽しく。そう思う。 だから三年生8月現在、進学という選択をせず就職でもいい。そう思う。 でも今私は悩んでいる。 「そうだよねー?おねーちゃんとかがみ先輩を例えると・・・」 いつもの様に逃げるか、それとも、はるか前方にある背中を追いかけるか。 そう、幸せだから。幸せだから私は悩んでる。かがみとの変わった同居が幸せだから。 「パズルのピースと、ピースをはめられるのを待つパズルかな?」 ピースの居場所はパズル。パズルが変わってゆくなら、ピースも同じように変わればいい。 なーんだ。やっぱり私はバカだ。悩む必要なんてなかった。答えは決まっていた。 「ふふ。ゆーちゃんは相変わらずメルヘンチックだねー。」 日差しが気持ちいい。緑に茂る木が眩しい。空はいつもより青い。なんだか足取りが軽い。 道は開けた。なんだか単純。それでもいい。もう立ち止まるわけにはいかないからね。 「ありがと、御二人さん。ゆーちゃん達もなかなか幸せそうだけどねー。」 照れる二人。可愛らしいな。そんな二人を見てたら、パズルに会いたくなった。 さ、頑張りますか。 ☆☆☆☆ 「・・・ねぇこなた?はいこれ。」 「かがみ、これ何?」 「見たまんま、体温計よ。さ、計ってみなさい。」 「・・・かがみって時々容赦ないよね・・・」 かがみがみさきち達との勉強会を終わらせ、帰ってきて私の姿を見た途端、こう言った。 なんだかいつもと反対の立場だ。ちょっとした敗北感。でも。 「私だって勉強の一つや二つするよ。なめちゃあかんぜ、かがみん?」 「だって驚くわよ?いつもなら私の勉強している横でアニメ見ているのにさ。」 「ふふふ・・・かがみんは分かってないなー。」 なんでだろう?今はとても嬉しい。この距離、この温かさ、この雰囲気。懐かしいって言ったら可笑しいかな? 遠くに感じていた私の居場所。パズルに忘れられたピースのように。 「私はかがみのために勉強してるんだよー?」 「はぁ!?な、何よそれぇ!?」 でも今は違う。走り始めた私。ゆっくりとしたスピードで。ま、周回遅れもいいとこだけどさ。 まだぴったりとはまらないピース。ここから始まる、ピースの挑戦。 「かがみが寂しくないように私もかがみと同じ大学にはいるよ。」 「・・・え?」 ただ一緒にいたいんじゃないんだ。かがみと肩を並べて歩きたい。自分の力で歩きたい。 どうすればいいかな?バカな私が思いついた事は一緒の大学に行くこと。分かりやすい答え。 かがみが強くなって、それにおぶさって。そんなのきっと幸せじゃない。 私だって強くなりたい。いままで助けられた分、私もかがみを助けてみたい。 同じように努力して、同じ歩幅で歩いて、同じ世界を見て。そんなことができたら幸せだ。 マンガじゃないから簡単にはいかないんだろうけどね。でも覚悟はできてる。 「私の本気を見せてあげるよ。一緒の大学に行こ、かがみん?」 「こなた・・・アンタね、私がどれだけ心配したと思ってんのよ・・・」 「スミマセン・・・」 「大学受験、思ってるより辛いわよ?それでも・・・」 「それでも引きたくないんだよねー。私は、かがみと同じ大学に、行きたいんだ。」 私は言葉では言い表せない表情をしているかがみを見つめる。そして、そっと手を握る。 同居している部屋。私は肌で感じる。二人の思い出、空間、温もり、幸せ。 ずっと、ここにいたい。だから私は進む。決意をこめて、精一杯の笑顔をかがみに送る。 「・・・しなさいよ・・・」 「ふぇ?何て言ったの?」 「約束しなさいよ・・・受からなかったら、怒るからね・・・」 大丈夫。絶対に出来る。かがみのはにかんだ笑顔がそう思わせてくれた。 変わらないもの、変わるもの。全てのものに贈る私の努力が始まった。そんな気がした。 10話 for meへ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-01-04 21 34 42) GJ! -- 名無しさん (2021-04-09 01 06 57) やはりあなたが神か… 続き激しく期待!!!! -- 名無しさん (2008-07-03 00 40 11) 本当に2人で、いつまでも一緒にいてほしいですね☆ 続きを楽しみにしてます♪ -- チハヤ (2008-07-01 20 28 43) Gj続きが楽しみです -- 名無しさん (2008-05-19 22 44 57)
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少しづつ空気が澄んできた、12月最後の登校日。 私、泉こなたは、高校の最寄り駅である朝の通勤・通学ラッシュ真っ只中の糟武スカイツリーライン 糟日部駅南口にて、親友である柊かがみ、柊つかさと待ち合わせをしていた。 珍しく早く起きることが出来き、そのため普段より早く待ち合わせ場所に着いた。 普段は親友二人を待たすことが多いから正直珍しい。 普段とは違い余裕があるからか、なんとなく物思いにふける。 目の前には駅前ロータリーがあり、そこに植樹されている木々もすっかり落葉して 冬らしい光景を作りだしていた。また空気も澄み切っており、晴れ渡った空も青々と 透明感があるからかすごく清々しく感じられる。 そんな清々しさとともに寒々しさも感じられそうな光景だが、風も無くぽかぽかとしている ため、そんなに寒く感じられなかった。 そうしてたたずんでいると、かがみとつかさの二人がやって来た。 二人より早く来たことに対しかがみから、『今日は雪か?』とからかわれつつも バス停へと向かっていった。 南口から外へ出た際、風が運んできた香りに、すれ違う人とキンとする空気を感じ、 なんとはなしにわくわくするような、気分が弾むようななんとも言えない感情にどうすればいいかわからず、 交差点で一瞬立ち止まりかける。 「ん、どうしたの?」 そんな私に気付いたのか、かがみが話しかけてきた。 この親友は私が言葉にしづらい感情を感じているとき、一緒にいれば必ずと言っていいくらいに 気にかけてくる。 「…いや、なんでもないよ。」 とそっけなく返事をする。 急になぜそんな気持ちになったのか考えを巡らせてみる。 そういえばこの時期になると早く次にゆきたいような、今をもっと味わいたいような、 微妙な時間感覚の中に彷徨い出すようなビビッドな感触を覚える。 …多分、唐突にそんな感覚を感じたからなのだろう。 そう一人納得していると、その様子を見たかがみが話しかけてくる。 「なんでもないって?ほんとに?」 ほんとはなんでもないって訳ではないが、二人に話しても本当に反応に困るだけだろう。 よし、ここは。 「あのさ…今日本で問題になっていると言えば、老人のゲートボール離れじゃない、奥さん。」 「いや、一回も聞いたことない。そんなの。てか、誰が奥さんだ。」 よし、通常運転に戻った。このまま続けよう。 「あ~くだらない内容だった。気にかけて損した。」 「いやいや、重要なことだよ。でね普及のためにアニメ化が効果あると思う。 …わしの名前はゲートボーラー米蔵。ひょんなことからゲートボールの神様に出会ってしまっての。 そこから始まる、愉快痛快寿ストーリー。新番組『ゲートボーラー米蔵』。 毎週火曜朝四時放送。転がれーワシの寿命よりも長く。」 「ワシの寿命よりながく――。」 つかさも一緒に最後のフレーズをハモってきた。 「誰が見るんだよ。何今の決め台詞。ワシの寿命よりも長く…縁起でもない。 あと朝四時、早い。それとつかさもハモってくるんじゃない。」 「えへへ、気に入っちゃって。つい。」 「あと今ならワシのサイン入り入れ歯をプレゼント。」 「いらねえよ。って、なんで寝てんのよ、おい。」 「いや、夢落ちにしようと思って。」 「なんだよ、その発想。」 「なんかうやむやにしたくなって。」 「うやむやにしたくなってじゃないわよ。 ほんとに寝るな、お~い起きろ。お~い。」 「お~い、お姉ちゃ~ん、ここで寝ると風邪ひくよ~。」 「う~ん、ゆ~ちゃん?」 気がつくと、目の前に従妹である小早川ゆたか、愛称ゆーちゃんがいた。 しかも自宅リビングのこたつにはいっている。 あれ、たしかさっきまで高校の通学路にいたはずなんだけど? もしかして夢だったのだろうか。 たまに妙にはっきりした高校時代の夢を見るんだよな~。 そんなに思い出深いのだろうか? 徐々に意識がはっきりし始め、女子大生である私は猫のイラストが プリントされた部屋着にどてらを羽織った姿でこたつの上に突っ伏した。 「あけましておめでとう。お姉ちゃん。」 「あけましておめでとう。ゆーちゃん。」 簡単な年始の挨拶をしてきたゆーちゃんに対し、 体をゆーちゃんの方へ向け簡単な年始の挨拶をする。 もう年が明けたんだ。ってことは毎年恒例のコミケから帰ってきてすぐ突っ伏してしまったみたいだ。 あ~紅白の水樹奈々を見逃してしまった~~~。やってもうたーーー。 しょんぼりしながら、自分のケータイの表示を見てみる。 ふざけてかがみを押し倒した画像の待ち受け画面に2013年1月1日6:00と表示されている。 そう今日は1月1日元旦、昨日は大みそかおよび冬コミ最終日で帰ってきてすぐ寝てしまった んだった。 ふざけてかがみを押し倒した画像を見て、ゆーちゃんがかなり呆れつつぼそっと 『ホントにあったんだ、その画像…』と呟く。 ごめんねゆーちゃん。この画像は私のエネルギーの源なのだよ。これだけは譲れない。 その画像を見て思い出したのか、ゆーちゃんが話しかけてきた。 「そういえば柊先輩のところの神社、初詣の参拝客が増えたみたいでかなり忙しそうだね。 東京メトロのメトロガイドでも紹介されていたしね。」 「そうだね、年末年始はそうとう忙しいみたいだね。かがみとつかさには年末年始はこっち からの連絡は控えているからね。でもそろそろ休憩に入るんじゃないかな。」 「よく分るね。お姉ちゃん。」 「そりゃ何度もかがみん家の神社に初詣しているからね…そうだ、今から神社行ってみようかな? 今から行けばかがみたちの休憩時間に間に合うだろうし。」 「今から行くの?すごく寒いよ。大丈夫?」 「平気、平気。それじゃ、行ってくるね。」 そう言うが否や自室へ戻り、すぐに着替え、家の外へ出る。 まだ夜の帳は大分おりていたが、東の空からわずかに日が昇っており、 空は日の光と夜の闇のコントラストが出来ており、太陽と月の両方が見え、 空気もとてもクリアになり遠くまで見通せるようになっているからか、 見慣れた日常の光景にも関わらず、不思議と幻想的なものを見ている気持ちになった。 外の空気も案の定、とても冷たく空気がキンとした感じがしていたが、なんていうかわくわくしていた。 正月は見るもの感じるものすべてが、何か新しく感じるのが不思議だ。 突拍子もなく出てきたが、こんな不思議と楽しい気持ちの中、普段居心地の良い場所を作ってくれる 親友、特に自分の言葉にできない心の奥底にある気持ちをすくって、見てくれるかけがえのない 存在に会って笑いあいたい。天の邪鬼で素直でないけど情に厚い子に。 特にさっきまでその子と楽しく過ごしていた時の夢を見ていたからなおさらだ。 そんな気持ちだからこそ唐突だけど、飛び出してきてしまった。 それでは行ってこよう。 こうして私は自宅駐車場に止めてある、自家用車であるセダンに乗り込み 朝もやが出来始めた街に向かって、鷹宮神社へと進んでいった。 県道 加須幸手線を通り、鷹宮神社付近に辿り着き、鷹宮神社の臨時駐車場へ車を駐車させる。 そして鷹宮神社へと歩いて行った。 境内は、ピーク時を過ぎたからかわずかに列が短く、思ったよりも早く本殿へと辿り着いた。 そして神社の社務所へと向かうと、巫女装束姿のつかさがいた。 「つかさ、あけおめー。」 「こなちゃん。あけましておめでとー。今から休憩だから。」 「そっか。そういえばかがみは?」 「お姉ちゃんは今別のところにいるから、休憩時間に合わせてもうしばらくしたらこっちにくるよ。」 「…そーなんだ。」 そうやって返答する私に対して、つかさは。 「お姉ちゃんいなくて寂しい?」 ととても返答に困ることを言ってきた。 かなりドギマギした私は。 「そ、そんなことはナイデスヨ?」 と焦り気味に返した。なにを言うかな~?この子は? 「え~?こなちゃん、お姉ちゃんといるときと普段の時、大分落差あるよ。」 「いやいやいつも平行線デスヨ?ワタシ…」 「自覚していないだけだよ~。どちらかっていうとお姉ちゃん目当てで来たんじゃない?」 「二人に会いたくて来たんだよ~。やだな~。」 「ホントに~?」 「ホントだよ~。…うう、つかさのクセに(小声でボソッと)。」 そんな風につかさにいじられるやり取りをしていると、遠くから髪を一結びにし巫女装束を着た かがみがやってくるのが見えた。 よしここは、かがみ対して何かアクションして紛らわそう。 「(和太鼓を叩くジェスチャーをしつつ)一ぼっくり、二ぼっくり、三ぼっくり食べたい。 四ぼっくり食べたら腹壊す。」 「一ぼっくりでも腹壊すわよ、こなた。一体なんなのよそれ?」 境内にある松の木に対して壮大なボケをかましていると、後ろからかなり呆れかえりつつ かがみが突っ込んできた。 「松ぼっくり祭り!!急に電波を受信して、やってみた。」 「なんじゃそら。私にも対応不可能なボケはあるわよ。」 「(小声で。でもこなたに聞こえるように。)ほら、やっぱり態度が全然違うよ。こなちゃん。」 とつかさが呟く。 確かにかがみとのやりとりはコントみたいになって、すごく楽しい。 だって、今かがみを見かけた瞬間に何かが始まった感じがしたんだもん。 気持ちそのものが明らかに変わったんだから、外から見ても明らかに変わっているかもしれない。 つかさの言うことも否定できない。でもそれでいいんじゃないかと思う。 だってすごく躍動的で楽しい気持ちになるんだから。それでいてどこか穏やかさを感じられる、 ハッキリ言って特別なんだ。 つかさやみゆきさんといるのも当然いいのだけれども、かがみは何かが明らかに違う。 だから 「うん、そうだね。」 とハッキリと返した。 そんな私に少し驚きつつもつかさは納得したみたいで、普段の穏やかな笑顔で返してきた。 いつも通りのやりとりを始めますか。 「かがみ…ひそひそ(耳打ちをする)」 「ちっちゃい声で『かがみ、実は整形してる?』って言ってんじゃないわよ。つーかしてないわ。 何年も付き合っているじゃないの。なぜいまさら言うのよ。」 「長年の疑問を新年の今言おうと思って…」 「そんなわけないないでしょ。」 「えっ!ちがうの、お姉ちゃん?」 「なんで双子の妹であるあんたが私の容姿を疑うのよ。 それこそあんたは生まれたころからの付き合いじゃないの。」 「いや~~お約束だよ、かがみん。」 「「ね~~」」 「うるさ~い。二人してハモってうなずいているんじゃないわよ。」 脱力系のいつもと変わらない光景に、ココロは安らぐ。 これから起こってゆくであろう出来事に期待が膨らむ。 こんな愛おしい日々を今年も始めてゆこう。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-10-29 10 45 41) つかさがこなたをいじるかw ありがとうございます -- 名無しさん (2014-12-28 08 27 41) 今年はらき☆すたが10周年だから、ここも盛り上がってほしいですね(・ω・) -- 名無しさん (2013-01-18 22 53 49) 久しぶりに、こなかがをと訪れたら今も更新されているとは! すごい!! -- な (2013-01-04 05 42 31) タイムリーな新作ですね、楽しく読ませていただきました。 ありがとうございます。 -- kk (2013-01-02 22 04 39) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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可愛いなとか。優しいなとか。一緒にいるのが当たり前で、いないとなんだか物足りなくて。離れたくないし、手放したくないって思った。 笑ってほしい。笑顔が見たい。ずっとそばで笑っていたい。 好きって気持ちを家族愛とか友情とか、恋愛ってやつに分類するとしたら。間違いなく私はかがみに恋している。 だから好きって言ってもらえて嬉しいし、付き合ってほしいって言葉にも頷けた。 今までも、これからも。ずっとかがみの隣は私の場所なんだって思えたから。 珍しく早起きした朝、いつもとは反対に柊姉妹を待つ。 通学の時間帯だから学生服の若者でごった返してる。朝から堂々といちゃついてる人もいたりするのかな。 以前なら冷やかし気味にちら見する程度だったけど、なんとなく青春のワンシーンに目が行く今日この頃。 間違ってもバカップルにはなりたくないけれど。 そもそも女同士だからカミングアウトもし辛いし、友達感覚が染み着いてて緊張とかドキドキとかもわからないまま。 付き合って何をするんだろう。なんて言うのはゲームとか色々で見てきた世界だし、知らないふりはしないけど。 そこに自分とかがみを当てはめ……るのは、恥ずかしくて無理。 そんな悶々としてること自体何より恥ずかしい気がする。時間を確認、結構経ってるじゃん。 もし今かがみたちが来たら、と思い自分の顔色を窺ってみたいけど、手鏡なんてものは普段の私は持ち歩かなかった。 家を出るときとか、最近絶対に時間かかりすぎてるってわかってる。いっちょ前に女の子してる、って昔の私が笑ってるかな。 でもそんな今の自分がわりと好きだったりするんだよね。 「おはようこなちゃん」 「おはよ。どうしたの、珍しく早いじゃない」 らしくなく考え事に耽っているうちに二人がやってきた。悟られないようにすぐ返さないと。 「おはよう。たまには早く来てみたらそんな言い種なんて、つれないねかがみんや」 「そんなの普段のあんたの行いのせいよ」 「つかさー、かがみが朝からいじめてくるよぅ」 ちょっとオーバーにつかさに泣きつく。少し苦笑いを浮かべながらもよしよしって頭を撫でてくれる。癒されるねえ。 「あ、ちょっと」 「どうしたの、お姉ちゃん」 「……別に、なんでもないわよ」 つかさに甘えた時のかがみの反応は今までにないものだった。 名残惜しいけどつかさから離れて、そっぽ向いてるかがみのほうに歩み寄る。からかいたい気持ちもあるけど、ほんのちょっと変化を加えてみようかな。 「かがみに早く会いたかったから」 本音は伝えたい人にだけ聞こえてればいい。そっと耳に寄せて囁いた。 みるみるうちに赤く染まるかがみの顔。忙しなく動いているけど言葉にならない口元。やっぱりかがみは可愛いねえ。 とは言えこのくらいでさ。告白してきた時の大胆さはどこへやら。 「わ、私だってこなたの……」 何か言いかけて結局口をつぐんだ。首をかしげて促してみる。 「その殊勝さもどれだけ続くことかしらね」 「いや、かがみ違うでしょ。さっき何を言おうとしたのさ」 「もうすぐバス来るわよ」 そう言って乱暴に私の頭を撫でる。ピンと背筋の伸びた立ち姿はキレイでカッコよくて。何か誤魔化された気がするのに追求ができなくなる。 じっと見上げていると不意に目が合った。 常識的で堅苦しい、照れ屋で怒りっぽい、そんなの全然違くて。 優しく微笑んでみせる。特別なんだって。 どんな顔で応えたらいいんだろう。かがみみたいな笑顔ができる自信なんてない。 見られたくなくて俯いて、でも見ていたくて顔を上げる。照れくさくっても構わない。好きなんだって気づいたから。 かがみが笑うと私まで嬉しくなる。私が笑えばかがみも笑ってくれるなら、いつだって笑顔でいたいと思った。 のんびりまったり昼休み。授業の間の短い休み時間じゃかがみは顔を出してくれなかった。 「おーっす、来たわよ」 何事もなかったようにやって来て、ほっとする反面ちょっと面白くない。そんな内心を隠してかがみを迎え入れる。 「もー、遅いよかがみ」 「悪い悪い、ちょっと日下部にしつこく絡まれてさ。普段はそうでもないのに、なぜか今日に限って」 なんでだろう、野生の勘みたいな?だけど残念だったねみさきち、一足遅かったみたいだよ。 「みさきちの必死の懇願も笑顔でスルーしてきたわけだね」 「そんな真似するか。誰かさんがずっと待ってるからって言ってきたのよ」 「つかさ、いい加減お姉ちゃん離れしないと」 「えぇ!?そんなことないよぅ」 「……もうあんな顔するんじゃないわよ」 私の頭を小突きつつ小声でぽつり。 「えっ?」 「遅くなって悪かったわね、みゆき。さあ食べましょ」 「いえ、そんな。皆さん揃っているほうが美味しいですからね」 いただきます、と手を合わせる三人。あれ、私置いてけぼり。 ちらりとかがみを見るけど、もういつもの食欲魔神(は言い過ぎかな)で美味しそうにお弁当を食べ進めていた。 最近のかがみは勘が鋭くなった気がする。主に私限定でってずるい。 「なに、欲しいの?」 「いやいや、つかさが作ったのならともかく、かがみ作じゃねえ」 いつもの調子で答える。本音を言えば味じゃなくてかがみが作ったってことに意味があるんだけどね。 「悪かったわね。と言うかあんたこそ、最近全然弁当作ってこないじゃない」 「まあ最初は姉の威厳ってやつもあって頑張ってたんだけどさ」 ゆーちゃんもすっかり一人でできるようになっちゃって。私は以前のようにゆっくり寝ていられるのでいいかな、と。 「もったいないよこなちゃん。せっかく料理できるのに」 「急にどしたのつかさ」 「食べてくれる人のこと考えながら料理するのって楽しいよ。お姉ちゃんもそう思わない?」 「私はどっちかと言うとつかさにがっかりされたらやだな、ってプレッシャーのほうが」 「思うでしょ?」 「ええ、つかさが美味しいって言ってくれたらすごく嬉しいわね」 珍しくかがみがつかさに押されていた。何事ですか、とみゆきさんに視線を投げても聖母の如き微笑み。 つかさがいつの間にかこっちに戻ってきていて、見たこともないような真剣な表情で。 「だから、こなちゃんもお姉ちゃんにお弁当作ってあげたらいいと思うんだ」 「はい!?一体どうしてそんな結論が?」 「お姉ちゃんも、こなちゃんの手作り食べたいでしょ」 「そ、それはその……食べたいかな」 照れながらも素直なかがみ萌え。なんて言う余裕はあるはずもなく。 「ね、こなちゃん」 「泉さん」 「えぇ!?なんでみゆきさんまで」 ちょ、なにこれ。どういう展開。 大好きな彼のために頑張ってお弁当作ってきましたとか、そういう感じ?私のキャラじゃないよ、勘弁して。 常識人のかがみに期待してみたけど。 「こなた」 呆れてたり怒ってたり、色んな声音で呼ばれてきた私の名前。いつでも感情が込められていて、呼ばれる度に私の心臓が小さく跳ねる。 優しく、はっきりと私に届けられる言葉。かがみが真っ直ぐに私を見つめる。 目が離せない。思考が止まったみたいに。確かなことが一つ。私はかがみが大好きだ。 「それだけお願いされちゃ仕方ないね。わかったよ。でもあんまり期待しないでよ?」 「こなちゃん、つんでれ?」 「つ、つかさ何言ってんの!?」 「おお、まさしくあんたの言うツンデレってやつよね」 「ちょ、かがみ!みゆきさんもなんか言ってやってよ」 「ふふ、泉さんもかがみさんも幸せそうですね」 みゆきさんまでなんてこと言い出すかな。いや、間違ってはないんだけどさ。 かがみも、こういう時は真っ先に否定してたのに。笑ってないで。可愛いけども。 「もうお姉ちゃんとこなちゃん、付き合っちゃえばいいのに」 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-12-01 20 20 51) GJ! -- 名無しさん (2017-04-22 23 26 56) やったー! 新作キタ~ -- kk (2014-09-14 23 20 26) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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高校2年の9月半ば、夏の照りつける太陽は少しずつ弱まり、蝉の鳴き声も日ごとに 少なくなってきている。とは言っても、正午近くになれば依然30度近い高温にまで上昇するため この時期は夏服の着用が許可されている。10月には冬服に切り替わるために、この暑さも 落ち着いてほしい所である。 私、柊かがみにとって陵桜学園での昼食は一番楽しみな時間の一つである。 幼少の頃から、私とつかさは一緒に昼食を取っている。双子ということもあり、 私たちは学校生活を通して一度も同じクラスになったことは無いため、人見知りしやすい つかさのクラスに私がお弁当を持っていくのが日課であった。 四時間目の授業を終えて、つかさが作ったお弁当を持参した私が、E組のドアから教室を 覗くとE組の生徒たちの半数は既に昼食を取り始めていた。E組の授業は世界史だったようで、 黒板にはイギリスやフランスにおける王権神授説や重商主義政策などが書かれている。 こなたたちはつかさの席の周りに集まっており、こなたが私に気づくと手招きをしてきた。 そんなこなたの様子につかさとみゆきも私の存在に気づくと、私は軽く手を振りながら つかさの席へ足を運んだ。 「んん、美味しい」 つかさの作った卵焼きを口にすると仄かな甘さが広がる。 「ありがとう。その卵焼き、いつもより上手に焼けたと思ってたんだ。良かった」 つかさはあどけない笑みを浮かべながら返事を返した。今日つかさが作ったお弁当には 卵焼き、小型ハンバーグ、野菜炒め、ウサギの形に切られたリンゴがデザートとして 付いてくる彩り鮮やかなお弁当だ。つかさは私と違い料理が上手で、家でもお母さんの 夕食を手伝ったりしていることが多い。姉としてつかさには負けまいと、勉学を はじめとする様々なことでつかさより一歩先の立場にいた私だが、料理だけはどうやっても 敵わなかった。カレーライス程度しかまともに作れない私には、その才能を羨ましく思う。 「今日もかがみさんとつかささんのお弁当は美味しそうですねぇ」 みゆきは感心したように私とつかさの弁当を見つめている。 私から見れば高校生の昼食のお弁当にウナギを入れてくるみゆきの弁当には敵うまいとも思ったが、 みゆきは悪気があって言っているわけでは無いのだろうし、私もそれを口にしようとは思わなかった。 「みゆきさん。そこは『今日も』じゃなくて『今日は』だよ。 昨日の二人のお弁当と比べたらつかさが可哀そうだって」 こなたはみゆきに内緒話をするような仕草で、 しかしはっきりと私に聞こえる声量でそう口を開いた。 先日私が用意した、表面が焦げ付いてしまった焼き鮭の切り身に夕飯の残りの ホウレン草の胡麻和えとたくあんを入れただけの代物と比べられれば私に敵うはずもない。 たしかにこなたの言葉を否定できる部分はどこにも無かった。だがこうもはっきり 言われてしまうとさすがに私も黙ってはいられなかった。 「仕方ないでしょ! 私が家事とか料理が苦手だし、誰にだって得意不得意はあるわよ」 「食べることだけは誰にも負けないのにねぇ」 「うるさい!」 私はこなたに向かって自分の拳を振り上げる。もちろん本気でこなたを殴ろうなどとは 思っていない。私は怒っているんだということをこなたに示すためだ。 しかし、こなたも実際に拳は飛んでこないと知っているのか、頭に手を乗せて 身を守っているようには見えるものの、その減らず口は止まるところを知らない。 「かがみ凶暴! そんなんだからいつまでたっても彼氏ができないんだよ」 「ちょっと待て! それは私だけじゃないだろう!? あんたはどうなんだ!?」 「うふふ、泉さんとかがみさんは本当に仲がよろしいのですね」 「うんうん。お姉ちゃん、こなちゃんといる時っていつも賑やかで楽しそうだもんね」 私たちが口論していると、予想だにしなかった別方向からの攻撃に 私は思わずたじろぎ、その場で立ち上がって二人の言葉を否定する。 「ちょ! そんなわけ無いでしょう!? こいつのおかげで毎日私がどれだけ苦労してるか!」 「う~ん。このツンデレっぷり、たまんないねぇ。さすが私の嫁」 「嫁とか言うな! 恥ずかしくないのかお前は!!」 「あの、多分お姉ちゃんの大声の方が恥ずかしいと思うよ……」 つかさの言葉に周囲を見渡すと、私はクラス中の視線を集めていたことに気がついた。 「う……」 気恥かしさにそれ以上の言葉が出てこなくなり、私はその場に腰を下ろすしかなかった。 私たちの日常はいつもこうだ。こなたが私をからかい、私が怒って、 つかさとみゆきがその仲裁をする。そんなやり取りを繰り返す毎日だが、私にとってこの4人で 過ごす時間は一番の宝物だった。いつまでもこうしてみんなと一緒にいたい。 いずれは卒業し、みな別々の道を歩むことは分かっている。それでも今は、 この何気ない日常を精一杯楽しんでいたかった。 「陵桜学園の近くで別の高校の女子生徒が襲われる事件が発生した。 幸い女子生徒は無事だったらしいが、未だ犯人グループは捕まっていないらしく……」 私のクラスである2年D組の担任が帰りのホームルームを行なっている。これが終わり 日直が号令をかければ文化祭の準備に取り掛かれるのだが、今日はいつもより ホームルームが長い。生徒たちもしびれを切らしたのか、静まりかえった授業中とは違い 皆雑談に夢中になっている。 「うちの高校の近くで事件か。物騒な世の中になったなぁ」 「最近は刃物を使った殺人事件とかも多いから気をつけないとね」 私の後ろに座る日下部と峰岸がそう口にする。私も会話に 参加しようかとも思ったが、この後の文化祭の準備のことを考えていた私は 二人の話を漠然としか話を聞いていなかったため、聞き流すことにした。 「はぁ、柊は良いよなー」 と思ったのもつかの間、後ろから日下部に名前を呼ばれればそうもいかなくなる。 「何がよ?」 私は日下部に向き直り尋ねた。 「だって柊の凶暴さは犯人も裸足で逃げ出すほどだろうしさ。 むしろ間違えて柊を襲った犯人が可哀想ってもんさ」 「なんだって!?」 「おー恐い恐い。あやのー、柊が虐めるよー」 「もぅ、今のはみさちゃんが悪いわよ」 「そこ、今は休み時間じゃないぞ。静かにする」 流石に声が大きすぎたか、担任から注意を受ける羽目になる。 私は正面に体位を戻すと、後ろから 「全く、柊のせいで怒られちまったじゃねぇか」 という言葉が聞こえてきた。私も負けじと小声で返す。 「どう考えてもあんたのせいだろ」 「二人とも。また注意されるといけないから、今は静かに。ね?」 峰岸の言葉が双方に等しく水をかけたようだった。私は日下部への文句を堪え、 お互いに押し黙る。また日下部のせいで注意を受けるのも癪なので、 私も文化祭の準備に思考を戻した。 「……というわけで桜藤祭の準備も結構だが、下校の際には十分気をつけるように。 私からは以上だ」 第十五回陵桜学園桜藤祭。私たちの通う陵桜学園は進学校ということもあり、 文化祭という行事ができたのも開校して10年以上も経ってからだった。 伝統こそ浅いものの、このあたりではなかなかの規模で行われ、 文化祭当日には多くの人が集まる。 今年のD組はE組と協力して体育館を使って劇を行うことになっている。 私個人としては経験が無い劇よりも、お化け屋敷や喫茶店のような定番の物のほうが 良かったのだが、クラスの過半数以上に賛成されてしまえば、 異議を唱えるわけにもいかなかった。 こなたと日下部は役者に、つかさは小道具、みゆきは監督兼進行係、峰岸は脚本を 担当することになっていた。私は劇の経験など全くないので何をやるか模索していたのだが、 こなたは私を役者にしたかったらしく、私の知らぬところで半ば強引にみゆきを はじめとする学級委員、文化祭実行委員、そしてクラスのメンバーを説き伏せてしまった。 普段は頭を使ったり、自分から行動することは面倒臭がるくせに、 こう言うことに関してだけは手回しが早い。私は以前こなたに 「役者としてなら、私なんかより顔もスタイルも良いし、何でもそつなくこなせる みゆきのほうが適役じゃない?」 と訊いたことがある。私の疑問にこなたは 「わかってないなぁ。役者としての適性じゃなくて、勝手に決めるなと言いながらも 結局引き受けてくれるかがみだから萌えるんじゃん。みゆきさんもありだろうけど、 やっぱり私的には『ツンデレ萌え』なわけよ」 と、親指を立てた右手拳を私に突き出し、誇らしげに答えた。 らしいといえばらしいが、あまりに予想通りのこなたの言葉に私は肩を落とした。 しかし、こなたはしばしの後にこうも付け加えた。 「……それに、こういうのって仲のいい友達と一緒にやりたいじゃん。みゆきさんは最初から 監督と決まってたし、つかさは人前に立つの自信無いって言ってたし。かがみには迷惑かなーって 考えもしたけど、きっとかがみなら役者でも大丈夫って自信もあったしね」 その時の、笑顔で答えたこなたの顔を私は忘れられないだろう。 時々、自分の気持ちを率直に言葉にできるこなたを本気で尊敬する時がある。 こなたのことは手のかかる面倒な奴だとも思う時もあるが、それでも私にとって大切な親友で あることに違いないし、初めての劇で心許せる友達と一緒というのは心強いことだと思う。 しかし、私も心では同じように思っていても、素直になれない私は、本当はこなたと 同じ気持ちなんだとは伝えられなかったと思う。 その後の私はこなたに対してどう返答したのか覚えていない。ただ、その日の学校帰りに 駅前のお店でこなたにアイスクリームを奢った記憶がある。普段あまり人に物を 奢ったりしない私がこなたにアイスを奢ったのだから、その日の私は 上機嫌だったんじゃないかと思う。きっと私にとって、劇でどの役割を 頑張るかよりも、誰と頑張るかの方が大切なことだったのだろう。 「はい。今日はここまでにします。みなさん、お疲れさまでした」 本日最後の合同練習がみゆきの号令と共に終わりを告げ、張り詰めていた空気が解かれる。 今日は週末の金曜日ということもあり、夜遅くまで練習を延長することも可能ではあったが、 日程にはまだ余裕があるし、現状そこまでする必要は無いだろうと 今日は夕方五時が解散時刻になっていた。 私たちいつもの4人は体育館から外に出た。9月も中ごろとなれば、この時間でも 空が青から橙に移り変わろうとしている。夏服には冷たく感じる乾いた風が 少しずつ、しかし確実に秋の季節が訪れてきていることを感じさせた。 「ふぅ、だいぶ形らしくなってきたわね」 私がみゆきにそう口を開くと、みゆきも満足そうにほほ笑む。私たち舞台組は、 今のところ速いペースで進んでおり、後数日もあればスケジュールをこなせそうだった。 「準備に時間かけ過ぎだよー。またゴールデンタイムのアニメがリアルタイムで見れない……」 「録画予約してあるんだったら別にいいじゃない。スケジュールは余裕を持って組むものよ。 それに、余裕ができればつかさを手伝うこともできるじゃない?」 私はつかさに向き直ってそう答える。 「ごめんね、みんな。まだ時間かかっちゃうかも……」 「心配しないで。つかさはよくやってるよ」 沈痛な面持ちのつかさに私は軽く背中を叩いてあげる。 私たち舞台組と違い、裏方組は思うように進んでいないらしい。特につかさの 担当する小道具は衣装やかつらを用意するのに膨大な作業量を要している。 加えてここ最近の、つかさと一緒に小道具を担当している生徒たちは各々の事情により 学校での作業人数が普段より少なくなっている。このような状況下でつかさだけを 責めるのは酷というものだろう。 「ふぅ、みゆきさんが組んだスケジュールだから安心と言えば安心だけど その分大変だよねぇ。学園祭なんだし、もっと気楽にやろうよ」 「何言ってんの? さっきも言ったでしょう。こういうことは余裕を持って準備するのが 基本なのよ」 気だるそうなこなたに対して、私は子供をあやす様な穏やかな口調で説得する。 「あら、メールですね」 みゆきは携帯電話を取り出しながらメールの確認を行い始めた。 「誰から?」 「母です……。あぁ、なるほど」 メールの確認をしたみゆきは困ったような、苦笑いしているような表情を浮かべた。 「すみませんが、私は一足先に失礼しますね」 「何かあったの?」 「いえ、母がお腹がすいたので早く帰ってきて夕食の準備をして欲しいと」 「みゆきさんも大変だね」 「そういうことですので、今日は失礼します」 「ばいにー」 私たちのお決まりの言葉でみゆきと別れる。一人バス停へと向かうみゆきの背中を 見送りながら食事の準備のために、家に帰らなければならないことを思うと少し 同情してしまう。こなたの家と違いみゆきの家は両親が健在でみゆき自身も一人っ子のはずだ。 そんな娘に食事を作るように帰りをせがむ母親はどういう人なのだろうという疑問を 持たざるを得なかった。もしかしたら、今のみゆきが才色兼備なのは そのお母さんの影響なのかもしれない。 「そうそう、私も携帯新しく買ってもらったんだ」 つかさはみゆきの携帯を見て思い出したのか、私とこなたに新しく買ってもらった ピンク色の折りたたみ式携帯電話を取り出した。アニメキャラクターのストラップ ――たしか、ケロロ軍曹という名前のカエルをモチーフにしたキャラクターだ―― が付いており、可愛いもの好きなつかさらしい携帯電話だった。 「おぉ、良かったね」 「実力テストの点が良かったからご褒美にってお父さんが」 「番号教えてよ。私のも教えるから」 「うん、ちょっと待っててね」 つかさは番号を呼び出すために慣れない手つきで携帯電話のボタンを押し始める。 こなたも番号を交換するために自分の携帯電話を取り出した。 「こなたが携帯持ち歩くなんて珍しいわね?」 私は心に思ったまま疑問をそのままこなたにぶつける。こなたの携帯の電話番号は 私の携帯にも登録してあるが、携帯にかけても繋がることはほとんど無く、 私からこなたに電話連絡する場合は、こなたの自宅の電話にかけるのが日課になっている。 「いやー、この前までどこに行ったか分からなかったんだけど、机の引き出しの 奥から発掘してさ。せっかく買ったんだし使わないともったいないかなと思ってね」 「これからは持ち歩いていてくれ。連絡を取りずらくてしょうがない」 「大丈夫大丈夫。休みの日はネトゲとアニメでほぼ間違いなく家にいるから 家に電話してくれれば、まず連絡つくって」 自信満々にこなたがそう答えると、携帯と四苦八苦していたつかさが ようやく準備ができたらしく、二人は電話番号を交換し始める。 「……ひきこもりみたいな生活してるな」 額に手を当てて、あきれながらそう呟いた私にこなたは何を思ったか、 私を見ながら口元に笑みを浮かべた。別に褒めたつもりは無かったのだが、 オタクの思考回路では今の言葉をどう捉えたのだろうか? 私は携帯を操作するこなたを観察する。身体こそ標準の女子高生より 小柄なものの、手足は筋肉で引き締まっている。小さな見た目に反し、 握力一つとっても私やつかさよりも上だろう。 運動神経という一点のみを見れば、陸上部で普段から体を鍛えている日下部や、 万能の天才であるみゆきをも上回る身体能力を持つこなただが、その性格上 高い身体能力が生かされることは無い。格闘技の経験者でもあるらしいが、 宝の持ち腐れという言葉がこれ以上似合う奴もいないだろう。 「じゃ、私たちもそろそろ帰るか」 二人が番号を交換し合ったのを確認した私は二人にバス停に向かうように促した。 しかし、つかさが 「ごめん、お姉ちゃん。こなちゃん。私はもう少し残るから二人で先に帰ってて」 と私とこなたに言う。つかさの言葉に私は首を傾げると、こなたも私にとって つかさの言葉が予想外だったことを察知したのか、つかさに問いかけた。 「つかさがかがみと別行動とは珍しいね。何かあったの?」 「えっと、私のところは予定より遅れちゃっているから もう少し頑張ろうかな……って」 「急ぎじゃなければ慌てる必要もないと思うけどね。まだ時間もあるんだし 少しずつやっていけば良いんじゃない?」 「でも、私のせいでみんなに迷惑はかけたくないから……」 役者である私やこなたにつかさの担当する小道具の仕事がどのくらい遅れているのかは 明確には分からない。たどたどしいつかさの言葉とは裏腹に、瞳には 決意は変わらないと代弁してるかのように、光彩が浮き出ていた。 さすが私の妹と言うべきか、一度言いだしたら何を言っても駄目なんだろう。 私はそう理解し、こう言うところは私とよく似ていると思うと 笑いがこみあげてきて、私は口元を手で押さえた。 「お姉ちゃん?」 つかさなりに自分の責任を必死に果たそうとしているのだろう。 ならば、私の取るべき行動は一つだった。 「私も手伝うわ。一人でやるより二人でやる方が良いでしょ」 「お姉ちゃん、いいの?」 「もちろんよ。つかさが残るなら私も残るわ。つかさ一人だと不安だしね」 最愛の妹に対しても憎まれ口をたたくあたり、本当に私は素直じゃないなと思う。 それでもつかさは、私の言葉に顔を綻ばせてくれた。 「そういうわけだから、こなたは先に帰ってて。私もつかさと残るから」 「うーむ、そうしたいのは山々だけど、かがみにそこまで男気を見せられたらねぇ……」 こなたは顎に手をやって思案を巡らせているように見える。 それから一度頷くと、こなたは私とつかさを交互に見遣った。 「私も手伝うよ。どうせ今から帰ったってアニメには間に合わないしね」 根っからのオタクであるはずのこなたにとって何一つ得られる利益など無いのに、 私たちのために学校に残ってくれるという。 私がこなたに信頼を置ける理由が少しだけ分かった気がした。 「こなちゃんも……。二人とも、ありがとう!」 こうして、私とこなたとつかさは文化祭の小道具が置かれているE組の教室へと向かった。 「ふぅ、これだけやれば大丈夫でしょう」 「ふぇー、疲れた……。やっぱり意地はらないで帰れば良かったかな」 「でも、これでゆきちゃんにも迷惑かけないで済みそうかな」 あれから私たち三人は誰もいないE組の教室で小道具の作成に掛かっていた。 家には帰りが遅くなることは電話してあるし、明日は土曜日なので通常授業は無い。 文化祭の練習も午後からなので、明日の朝起きるのが遅くても何も問題は無かった。 守衛さんに見つかった時にはあせったけれど、事情を説明するとなるべく早く帰る様にと 忠告を受けながらも、今回だけ特別に許してもらうことができた。 「早く帰ろう。ネトゲが、アニメが、私を呼んでいる!」 「あんたは悩みが無さそうでいいな」 元々の体力の差なのだろうか、あるいは趣味がこなたに活力を与えているのか。 疲労感を全身に感じている私とは対照的に、こなたは快活に答えた。 私は椅子からゆっくりと腰を上げると、作業のために勝手に動かした机と椅子を 元の配置に戻す。そんな私に続き、こなたとつかさも帰宅の準備と後片付けを始めた。 「そんなわけ無いじゃん。深夜アニメは録画予約してないから急いで帰らな――あー!! 」 こなたの突然の大声が私の耳をつんざき、驚愕してしまった私とつかさは手を止めてしまった。 「いきないでかい声を出すな! 耳に響く!」 「しまった……。準備のことですっかり忘れてた……」 「何? また見たいアニメでも見逃したの?」 「そうじゃなくて……。かがみ、今何時だか分かってる?」 こなたの言葉に私は教室前面の黒板の上にある壁時計に目を向ける。 「何時って……10時40分よね?」 「私たち、どうやって帰るの?」 「どうやってって、バスに乗――」 そこまで言葉を発した私は、ようやくこなたの言いたいことに気がついた。 この時間だと学校から駅に向かうバスはもう走っていないかもしれない。 普段これほど遅くまで学校に残らない私たちは帰宅のことなど完全に忘れていた。 「迂闊だった……。今の時間だと、もうバス無いわよね?」 「私もはっきりとは覚えていないけど、たしか10時半ぐらいで最後だったと思うよ」 つかさの言葉を期に教室に沈黙が訪れる。私の記憶でも最後のバスの時間は それぐらいだったはず。つまり私たちはこの疲れた体で駅まで歩くしかないのだ。 私たちがいつも利用している糟日部駅までは陵桜学園からだと直線距離で 少なく見積もっても約3 kmはあるだろう。 私が二人の分も代弁して、大きくため息を吐き出し、重い口を開いた。 「……仕方がないわね。駅まで歩くしかないんじゃない?」 「……結構遠いよね?」 「タクシーでも呼ぶ? 駅まで歩くのも大変だし、ここはかがみ様の奢りで」 「何言ってるの。そんなに呼びたければ自分で呼べ」 「むぅー。こういう時みゆきさんがいれば、一つ返事でタクシー呼んでくれそうな気がするよ」 「ゆきちゃんの家ってお金持ちだもんね」 「みゆきがいたところでタクシーを呼んでくれるかは分からないけど、 無い物ねだりをしても仕方が無いでしょ」 「はぁ、やっぱり歩くしか道は無いのかねぇ」 先ほどまでの元気はどこへ行ったのやら。こなたの態度は一転し げんなりとした表情で、残りの片づけを行う。まあ歩いて帰らなければならないことに 辟易しているのはこなただけで無く、私とつかさも同じだ。 こなたの言葉通り、タクシーでも呼んで帰りたい気分ではあったが、終電の電車には まだ少し余裕があったし、明日の午前はゆっくり休めると思えば そこまでしようとは思わなかった。 後片付けを終えて全員が帰宅の準備を終える。私たちは明かりを消して教室を出た。 深夜の学校は静謐が包みこんでおり、窓から差し込む月明かりが廊下を照らしてくれている。 普段は喧騒に包まれているこの廊下も、今は私たちの足音が廊下に鳴り響いているだけだった。 つかさは誰もいない夜の学校が恐いのか、私の腕にしがみついてきた。 神社の娘でありながらお化けが恐いとは情けないな、と心の中で考えながらも つかさが私の腕を強く握り離さないことが、姉として慕われている証だとも思えて 嬉しくもあった。深夜の学校は怪談話の舞台としてよく取り上げられることが多いが、 リアリストを自負している私には、何故夜の学校というものにそこまで恐怖を抱くのかが いまいち分からなかった。 階段を下りてげた箱に向かう途中の道で黒井先生に出くわした。 「おぉ、泉に柊たちか。こんな時間までまだ残っとんたんか?」 宿直で見回りでもされていたのだろうか? 黒井先生は私たち3人を順番に見下ろすと、 やや口を尖らせて答えた。まあこんな時間に生徒だけで学校をうろついていれば 不審に思われても仕方ないだろう。 「いやぁ。文化祭の準備で残っていたんですけど、気が付いたらこんな時間に」 こなたが私たちを代表して、今までの経緯をこれ以上ないぐらい簡潔に答える。 「そうか。頑張るのは結構なことやけど、高校生なんやし、はよ帰らなあかんで。 それと泉。今ちょっとだけえぇか?」 黒井先生の言葉が教職者としての威厳を感じさせる言葉から、急に友好的な言葉づかいに 変わったように感じられる。先生は頭を下げながらこなたの前で両手を合わせた。 「頼む! 今攻略に詰まっててどうしても先に進めないところがあるんや。 何かえぇ攻略法は無いか? さほど時間はとらせん。教えてくれ」 黒井先生のあまりの予想外な言葉に私は開いた口が塞がらなかった。 遅くまで残っていた私が思うのもなんですが、先生、今早く帰れと仰いませんでした? 唖然としている私とつかさを他所に二人は会話を進めていく。 「また今度にしましょうよ。この間も『5分だけ』のはずが30分も時間取らされたんですよ?」 「そこをなんとか頼む! 頼れるのは泉しかおらんのや!」 「はぁ……。わかりましたよ。長くなりそうですから、どこか座れる場所へ行きましょう」 「さすが泉や! 話が分かる。ほな職員室へ行こうか?」 「あの、こなちゃん?」 すっかり置いてけぼり状態だった私たちだが、職員室へ向かおうとする二人を なんとかつかさが食い止める。 「あぁ、ごめん。そういうわけだから先に帰ってて。追いつけそうなら後から追いかけるから」 その言葉を最後に黒井先生はこなたを連れて、廊下の奥へと消えていった。 取り残された私とつかさは目を合わせ、二人同時に ため息をついてから、げた箱に向かって歩き出した。 「なんていうか、付き合うこなたもこなただけど、こんな時間にゲーム攻略のために 生徒を家に帰さない教師ってのも凄いな」 「ま、まぁ黒井先生は気さくな人だし、こなちゃんと黒井先生は仲が良いみたいだから」 正門を抜けた私たちはいつもならバスに乗って通る糟日部駅への道を歩いていた。 雲一つ無い夜空には白く輝く満月と、彩るように散りばめられた無数の星たちが宝石のように 美しく輝いている。月の柔らかな光と、等間隔で立っている街灯の明かりのおかげで深夜でも 視界は良好だ。いつもなら車の行き来が絶えることのない車道や買い物に向かうと思われる主婦、 犬の散歩をしているおじいさんなど、人の往来が絶えないこの道も、今はネズミ一匹いないのかと 思えるほどの静かな様相に、いつも通っている通学路も昼と夜という違いだけでこうも違って 見えるのかと改めて感じていた。 「あのね、お姉ちゃん」 「ん、どうしたの?」 つかさはおずおずと私の名を呼んだ。つかさがこういう態度の時はたいてい言いにくい 相談だったり、悩みを抱えていることが多い。私はつかさが少しでも落ち着けるように 朗らかに笑みを浮かべてつかさを見つめた。 「お姉ちゃん。いつもいつも、本当にありがとう」 だが私の予想に反し、つかさの口から出た言葉はそういう類いのものではなかった。 「どうしたの? 改まって」 「うん。私、いつもお姉ちゃんに助けてもらってばかりなのに、私はお姉ちゃんの 役に立てることなんてほとんど無いから……」 今日の文化祭の準備のことを言っているのだろう。手伝ってもらったという 負い目だろうか? 俯きながら答えたつかさの声は少し震えているように感じた。 私は努めて明るい声でつかさに言葉を返す。 「そんなことないわよ。私が私らしくしていられるのは、つかさのおかげなんだから」 「お姉ちゃんがお姉ちゃんらしく?」 俯いていた顔を上げて、つかさはこちらに顔を向ける。 「うん。それに私、子供のころは男の子からも恐い恐いって言われていたのに、 つかさだけはいつも私を庇ってくれたじゃない。 『そんなことない。お姉ちゃんは本当は凄く優しいんだ』って」 「そ、そうだったっけ?」 覚えていないのか、つかさは夜でも分かるくらい赤く染まった頬を 人差指で掻きながら恥ずかしそうにそう答えた。 私は昔から気が強い方だった。別に意識してそうなったつもりは無い。 ただ、どちらかといえば不誠実なことに関しては口を挟まずにはいられなかったし、 つかさがからかわれていると聞けば、真っ先に飛んで助けにも行ったりもした。 私はつかさのお姉さんなんだから、私がしっかりしないといけない。私はそれを自分の 信条として生きてきたし、その生き方が間違っているとも思わない。 だが不正を注意し、喧嘩がおこればそれを止める姿勢は一部の人間からは 頭が固い、じゃじゃ馬、面倒なやつなどといった偏見も持たれるようになっていた。 あれは中学一年生のころだろうか? ある日、私がつかさのクラスで談笑していた時、私は教室で走り回っている男子生徒たちに 迷惑だから止めるよう注意をしたことがあった。私は男子生徒たちと口論に成りかけたが、 休み時間終了のチャイムと共に、次の授業のために先生がやってきたため 私は自分のクラスに戻るために口論を止めた。口論していた男子生徒たちが 「自分のクラスでも無いくせにうるさい女だよな」 「だから頭が固いだとか、糞真面目だとか言われんだよ」 という私に対する中傷をぶつけてきた。今にして思えば悲しい話ではあるが、私にとって 悪口を言われることは珍しいことでも無かったので、聞こえなかった振りをして 自分のクラスに戻ろうとした。その時だった。 今まで背後から不安げに見ていたつかさが、私を中傷した男子生徒の目の前で 「そんなことない! お姉ちゃんはすごく優しいもん! お姉ちゃんのことを 何も知らないのに勝手なことを言わないで!」 と声を荒げて叫んでいた。今度はその男子生徒とつかさの間で口論が始まりかけたが、 先生が間に入ってくれたおかげでその場はひとまず収まった。 私はつかさが全力で庇ってくれたことが嬉しかった。あの臆病なつかさが、私のために 怒ってくれたのだと。 つかさは何時もそうだった。どんな時も、何があっても、 常に私の味方で、私の傍にいてくれたのだ。私の具合が悪くなれば、夜が弱いくせに 付きっきりで看病してくれる。いつまでたっても進歩しない私の料理の腕前に、 つかさは嫌な顔一つせず熱心に教えてくれる。私が両親や姉さんたちと喧嘩したときだって、 いつも傍にいてくれるのはつかさだった。 私はつかさの双子の姉であることを心の底から誇らしく思っている。 人は私たち姉妹を比べて、私をしっかりものだとか、お姉さんらしいと評価するが 私はそうは思わない。私がしっかりしていられるのは、自分に自信を持つことができるのは つかさがずっと私を助けてくれていたおかげなのだから。 「だからね、私はつかさが妹で本当に良かったと思ってるの。 双子だから気にすることも無いのに、つかさは今日までずっと私を姉として 慕ってくれた。だから今の私があるんだもの。お礼を言いたいのは私の方よ。 ありがとう、つかさ。私、つかさと双子で本当に嬉しいよ」 私はつかさの左手の取り、つかさの足をその場に止める。振り向きかけた つかさを全身で抱きしめると、つかさが手にしていた鞄が地面に落ちた。 「そ、そんなことないよ、お姉ちゃん! 私、そんな大したことしてないし!」 突然のことに普段のんびりとしたつかさもさすがにおろおろとする。 その様子がまた愛おしい。普段はなかなかこんな話もできないし、今は夜で人気もない。 なによりも、今だったら正直に普段つかさに感謝している 自分の気持ちを伝えることができると思えれば、私は遠慮しなかった。 「いいのよ。つかさはつかさらしくしてくれるだけで、私に元気を分けてくれるんだから」 「お、お姉ちゃんだってそうだよ! 私が今日までやってこられたのは、 絶対にお姉ちゃんの助けがあったからだもん!」 「ふふふ。ありがとう、つかさ」 感謝の思いを込めて、一瞬だけ腕に力を込めてつかさを強く抱きしめてから つかさを開放する。心なしか、先ほどよりつかさの顔は赤く、 私と同じ青色の瞳が少し潤んでいるように見えた。 この子には幸せになって欲しい。こんな私でも姉としてずっと慕い続けてくれた つかさにはどれだけ感謝の言葉を並べても足りない。いつか、この子が結婚式を 挙げる時には、私はこの世界の誰よりも祝福してあげよう。 そんなことを考えながら私たちは再び夜の街を歩きだした。 陵桜学園から歩き始めて、糟日部駅までようやく半分という所までやってきた。 日ごろの文化祭準備の疲れもあって徐々に歩くペースが遅くなっている。 私たちは依然バスで通っている歩道を歩いていたが、私は足を止めた。 「お姉ちゃん?」 「つかさ、駅ってこっちの方向だよね?」 「え? ……うーん、多分そうだと思うけど」 「だったらこの道を通ったほうが早く帰れそうよね?」 私が指さした方向にはいつもバスが通る道とは違う、民家の並んだ一本の細い道がある。 バスで通うのと違い、歩いて帰っている今は少しでも近道をして帰りたかった。 しかし、問題も無いわけではない。 「う、うん。でもこの辺の道そんなに詳しくないし、迷子になっちゃわないかな?」 つかさの言うとおり、私たちはこのあたりの地理に詳しくない。糟日部駅周辺なら ある程度の地理は分かるが、まだ駅と学校のちょうど真ん中あたりに位置する こんな民家が建ち並ぶ住宅街の地理など私たちが知るはずもなかった。 多分、普段の私ならばそんなミスは絶対にしなかったと思う。 いくら月明かりである程度視界が利くとはいえ、こんな夜中に、人気の無い 全く知らない道を、女子高生二人だけで通るなんて危機意識が欠けているといわれても 弁解もできない。しかし、明日も午後からは文化祭の練習はあるし、この疲れた体を 早く休めてやりたいという思いが、なんとかなるだろうという 安易な考えを呼びこんでしまっていた。 「方角さえ間違わなければ絶対早く着くって。ほら行こうよ」 私は自分が先に進めばつかさは後ろからついてくるだろうという 考えのもとに一人で細い道へと入ろうとする。 「お、お姉ちゃん待って――きゃ!」 「うおっ!」 私が歩き始めた直後、つかさの甲高い声と男の人の声が同時に聞こえた。 振り向くとつかさは人にぶつかったらしく、その場に尻もちをついており 他にもつかさの傍に数人の人影が見える。 「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」 立ちあがったつかさは一番近くにいた男性に頭を下げていた。私も急いでつかさの傍に駆け寄る。 「すみません。うちの妹が迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした」 大方、私を追いかけようと走ろうとした時に、つかさは慌てて人にぶつかったのだろう。 私はつかさの横に並び、正面にいる男性に謝罪した。 「あぁ、大丈夫だよ」 正面からやや野太い声が聞こえて私は頭を上げる。つかさがぶつかった集団は 見たところ十代から二十代ぐらいの若い男性が5人いた。私の正面にいる男性は 口調も穏やかで怒っている様子ではなさそうなことに一先ず安心した。 想いを言葉に(2)へ続く コメントフォーム 名前 コメント (^_−)b -- 名無しさん (2023-05-30 07 47 07)
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物足りない帰路、さびしんぼウサギなんてからかわれているけれど、かなり的を射ているのかもしれないわね。・・・認めたくないけど。 「お姉ちゃん、こなちゃん家にお見舞い行くんだよねー?」 「一応そのつもりなんだけど、この雨だと自転車はどう考えても無理そうよね」 雨は学校にいたころより酷くなっていた。 「そうだねー、帰らないでそのままお見舞いに行けばよかったかも」 つかさが言うのも一理あるんだけど、お見舞いに行くのだから何か持っていこうかと思っていたから、こうして一旦帰ってきたのだけれど・・・どうも裏目にでたらしい。 「やっぱりお見舞いなんだから、何かもっていった方がいいかと思っんだけど」 律儀なことを言ってる気もする。前に、私が風邪でこなたがお見舞いに来たときには、宿題を写しにきただけっぽかったし・・・。 「境内の紫陽花がそういえば綺麗に咲いてたわね。あれを少し拝借して花束を作ってもっていこうかしら」 「あ!それいいね。今年はちょっと時期が早いけど綺麗に咲いているよ」 もって行くものは決まった。でもさすがに勝手に切ってしまうわけには行かない。確か、紫陽花の手入れをしているのは、母だったはずだから、母に聞いてみないと。 「おか~さ~ん。こなちゃんのお見舞いに紫陽花の花を持っていきたいんだけど、いいかなぁ?」 「お見舞いに紫陽花を?いいわ。ちょっとまってて、綺麗なのを見繕って持ってくるから」 今日のつかさはなんというか行動が素早い気がする。 それについて、感心しているうちに紫陽花の花束を母が持って戻ってきた。 それは、綺麗なライトパープルの紫陽花。土の成分で紫陽花の色は変わるというけれど、うちの境内に咲いている紫陽花は毎年、この色の花をつける。株自体がこの色の花をつけるタイプらしくて、遺伝なのだそうだけど、詳しくはよくわからない。 私とつかさが生まれたときに、新しく植えた株だそうなんだけど、どういうわけか私達姉妹と髪の色と同じ色の花が咲くらしい。今年は、例年になく綺麗なライトパープルだった。 「わぁ、今年のは一段と綺麗にないたね~」 「本当ね。凄く綺麗」 二人して褒め称えると、母が少し得意げだった。 「そうでしょう、今年は去年より綺麗に咲いたのよ、これもお母さんの努力の賜物ね、ふふふっ」 母の嬉しそうな笑みにつられて私もつかさも同じように笑顔になる。 それから、服を着替えて、さて出かけようかなというタイミングのことだった。 「くしゅんっ」 玄関にて、いざ出かけようとした所でつかさが盛大にくしゃみをしたのだ。 「つかさ、大丈夫?」 風邪のお見舞いに行こうというのに、それだけ盛大なくしゃみをされては連れて行ってよいものか迷った。 「あら、少し熱っぽいわね」 母の手がつかさの額に当てられていた。つかさはしきりに「大丈夫だよ、お母さん」と繰り返していたが、つかさがお見舞いへ行くことは却下されることとなった。 「私もやめとこうかな」 まだ、こなたとは少し気まずい。嫌な気まずさとは違う・・・けれど、どう表していいのかわからない気まずさが残っている。 胸の奥に芽を出した名もない感情は少し成長して、それが私の心をほんの少し乱しているのもその原因の所為だろう。 こなたの事を考えると胸がざわざわして、どうしてか、物凄く悲しくなってしまう。いや、悲しいのとは少し違う・・・どう言い表せばいいのだろう。 「私もこなちゃんのお見舞いにいきたいよ、お母さん~」 私もつかさという口実がなければ、なんか育ってはいけない感情が名付く程に成長してしまいそうでとても、怖かった。 「だめよ。でも、せっかく花束を作ったから、そうね・・・かがみ持っていってあげたら?」 しかし、母は行けという。その言葉に・・・何故でだろう、あの日繋いだ手がほんのりと温かみを浮かべていた。 「へ?な、なんで、わ、私だけで・・・つかさに熱があるならそっちのほうが心配だし。・・・私もいかないわよ」 何故か声が上ずってしまう。虚勢にしては余りにも滑稽な弁明だった。 「お姉ちゃんは、とってもこなちゃんが心配なんだね」 つかさの言葉に心臓が跳ね上がった。きっと何か特に意図があるわけじゃない。 でも、つかさはどうしてだか、こういっては何だけれどいつも鈍いのに突発的に心の自分でも気がつかない程、奥の何かに触れるような発言をすることがある。 「そ、そんなことないわよ。さっ、傍にいてあげるからベッドで横になったほうがいいわよ」 頭を振って、考えを切り替えて母の後ろにいるつかさの手を引いて部屋に連れて行こうとするが、つかさが動かなかったので、私はつんのめってこけそうになってしまった。 「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、私の分までお見舞い行ってきてよ。その方が嬉しいな」 つかさは表情は笑顔で、でも目だけは心配そうな真剣な、そんな不思議な感じの目をしていた。 「じゃぁ、さっと行ってすぐに帰ってくるから」 私は母から紫陽花の花束を受け取りながら、つかさにそう告げた。 「きっとこなちゃん、喜ぶよ」 そういうつかさの額に手を当てると少し熱い。微熱程度だろうけど、風邪のひきはじめには違いなかった。 「あいつのことだから、きっと元気にゲームしてるわよ」 じゃぁ、行ってくるから、ちゃんと寝てるのよ?なんて言うと母が苦笑していた。 つかさがしっかりと頷くのを見届けてから、私は家をでた。 雨は相変わらず降っていた。こんな中、お見舞いだなんて馬鹿げているわね・・・そんな事を思いながら、あの空が青一色に染まってくれる事を願う。 しかし、紫陽花の花言葉ってどんなのだったかな。考えを巡らせていると、前にみゆきから聞いた、日本とフランスの二つの花言葉を思い出した。 日本のは移り気又は心変わり、冷たい人だったかな?でもフランスのは元気な女性だったはず。 フランス流で行けば、十分にお見舞いの花としては間違っていないかな。 言葉なんて、捉える言葉の意味によって変わるのだからここはフランス流で行こう。 ・・・この時、私は心変わりという花言葉がほんの少しだけ胸に染込んだ気がした。 目を覚まして、時計を見ると学校が終わった時間になっていた。空は相変わらず重たい色で染まっている。相当汗を掻いたのかべっとりとしたパジャマの感触と前髪の感触に嫌悪感を感じる。 今頃、かがみ達は学校の帰りかな。私がその場にいたら、かがみにしがみ付いて、それから、からかって顔を真っ赤にして怒ってるのにどこか楽しそうな彼女を見ながらつかさやみゆきさんと笑うのだ。そしたら、かがみも笑って・・・それはとても楽しいに違いないのに、どうして私はその場にいられないのだろう。 「あれ?」 ふと呟いた声は随分と掠れていた。それよりも声を出す程、驚いたのは頬を伝うたった一滴の涙。一滴から始まり、頬を伝い零れる。 私はいつからこんなに、寂しがりに、孤独に弱くなってしまったのだろう。 「ゆーちゃん帰ってきても部屋にいれるわけにはいけないよネ」 ゆーちゃんはつい此間、風邪をひいていたのだから部屋に入れるわけには行かない。きっと感染ってしまうから。 みゆきさんは家が遠いから無理だろうけど、かがみやつかさならお見舞いに来てくれるだろうか? そんな事を考えがら、重い体を起こして昼間に作っておいたホテルみたいにドアに引っ掛けられる“ゆーちゃんは感染るかもしれないから立ち入り禁止”というカードをドアノブに引っ掛けてベッドに倒れこむ。本当は、着替えたいけどそんな元気ないや。 もしかしたら、かがみなら前の仕返しにお見舞いに来てくれるかなぁ。 そんな何の保障もない期待をして、私は目を閉じる。誰もお見舞いに来なくたって早く元気になって学校へ行けば、皆に会えるのだから。 何気ない日々:温かい手へ コメントフォーム 名前 コメント (๑ ◡ ๑)b -- 名無しさん (2023-06-26 07 49 29) 全作品をいっぺんに読ませていただきました。 文章がとても上手で、特に心理描写が秀逸ですね。 続編を楽しみにしています。GJでした。 -- 20-760 (2009-02-03 07 40 25) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)